「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第1章 ロジカルとは何か(設問1-7)

論理思考、ロジカル・シンキングが普及してきたと述べましたが、“ロジカルとは何か?”、“論理とは何か?”の理解はなかなか進んでいないようです。

「業界の論理はそんなもんじゃない!」

「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」

というように、安易に使われることもあります。

あるいは、論理と屁理屈の区別がつかない人もかなりいるようです。そこで、この章では、論理とは何か、ロジックとどう違うのかを考えてみましょう。

ロジカル会話問題集設問1「出身県で性格がわかる?

N県出身者は几帳面である、という「出身県別性格占い」の著者に反論する場合、次の中で効果的ではないものを一つ選ぶと?

A:県境に住んでいる人は、どう判断するのでしょう?

B:本籍を変えている人もいますよ

C:生まれてすぐ違う県に移った場合、どう解釈しますか?

D:ところで、あなたの出身県は?

E:外国に移住した人は、その国の影響を受けるのでは?

ロジカル会話問題集 設問1解説

論理的ってなに?

 問題の解説の前に、まずロジカル、論理的とは何かをおさえておきましょう。平たく言えば「すじみちが明確であること」です。ロジックの語源はロゴス、言葉。言葉と言葉がつながると流れが生まれ、すじみちができます。つまり、論理的とは、言葉のつながりに注意をはらいながら、すじみちが明確であることを求める立場なのです。

 すじみちが明確であると、「みちすじ」をたどりやすく、他者と共有しやすいという利点を持ちます。よって、論理的な話し方=ロジカルスピーキングは他の人にわかりやすく物事を伝えることができ、その結果、相手の理解や納得を生むことができるのです。

 論理的な主張とは下記の二つの条件を満たすことが求められます。

  1.  論拠(よりどころ)の受け入れられやすいこと
  2.  意見、主張の組み立てが適切であること

 よりどころが受け入れられやすいことを妥当性と言います。

 妥当な論拠とは、共有された知識原理原則広く確認された事実などです。

 よって、この「出身県別性格占い」の問題も論拠の妥当性を問う質問をすればよいわけです。たかだか、「出身県別性格占い」じゃないですか、そう目くじらをたてなくても……と思われる方もいるかもしれません。まあ、ここはロジカル頭の準備体操と思っておつき合いください。

A-E各反論の検証 

その視点で設問1の各反論を検証してみましょう。

 〈県境に住んでいる人は、どう判断するのでしょう?〉は、性格の違う県がとなり合わせのケースを考えるとおもしろいでしょう。県境に住んでいる人は、いったいどちらの気質を受けるのか? このような素朴な質問は出身県で性格がわかるという話の論拠の妥当性を疑う質問になりえます。

〈本籍を変えている人もいますよ〉は「出身県」をどう定義するのか、その定義のあいまいさを示すことによってこれも論拠にゆさぶりをかけることができます。

〈生まれてすぐ違う県に移った場合、どう解釈しますか?〉と〈外国に移住した人はその国の影響を受けるのでは?〉という反論は性格や気質が出身の場所(この場合は県)だけで決まるものではなく、その後移り住むさまざまな地域や環境によっても形づくられるものであるという妥当性のある前提に基づいての反論と考えられるでしょう。

 おそらく、解説をするまでもなく設問1の正解を出した人は多いでしょう。(効果的でないものを選ぶので正解は、

 この問題で読者の皆さんに考えていただきたいことは世の中にはこのような、あいまいな論拠に基づいた主張や論拠なき主張、そして感覚的な議論があふれていないだろうか、ということです。

根拠無き主張の例

 論拠なき主張とは例えば、

「日本人は優秀です。どうしてかと言うと、私がそう思っているからです」

 というような言い方です。

 あるいは、

「これをしなさい。なんで? 私がそう言っているからだっ!」

 と人に命令する場合も同様です。もっとも、これは権力(パワー)を使って人を服従させる「パワーアプローチ」で、軍隊やヒエラルキーの強い社会では通用します。しかし、権力を持っていない状況、または持てない時にはパワーアプローチは使えません。パワーアプローチを大声で駆使していると、周囲からのひんしゅくをかいやすく、人心は離れていくのです。

 その一方で、感覚的な議論は世の中に広く流布しています。特に属性に関するステレオタイプです。

「あの人って、A大学出身のわりには、チャラチャラしているよね」

「やっぱり、B社の人だったんだ。どうりで優秀だよね」

というような会話を我々は日常で使うことがあります。

 このように、属性によるステレオタイプは確かに広まっています。その理由の一つには、ステレオタイプは人間の脳の情報処理活動に欠かせないという点があげられます。カテゴリー別に分類しながら、情報を取捨選択しないと脳はパンクしてしまいます。本人がステレオタイプを行っている自覚を持ちながら、その分類の修正をしたり、妥当性を考えていれば害はないのです。ところが、その反対にステレオタイプが固定化されると「ラべリング」になってしまいます。

 代表例は血液型に関する議論です。

「あなた△型なんだ! じゃあ、ロジカル会話は向かないよね」

 以前、血液型の話がこれだけ盛り上がるのは韓国と日本だけと聞いたことがあります。血液型が性格に影響を与える科学根拠が証明されていないにもかかわらず、なぜか盛り上がっています。

 もちろん、我々はいつも論理的に考えるとは限りません。むしろ、感覚的にものごとを受け止め、感情に動かされるやすいものです。ロジカル会話の第一歩は、この事実──人は必ずしも論理だけで考え、行動しないこと──を踏まえたうえで極力、論理に注意を払う習慣を身につけることです。

ロジカル会話問題集設問1 回答

正解はD

論拠の妥当性をつく質問、反論を加える。

Dは単に相手の出身県を確認するだけなので、有効な反論とは程遠い

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)