「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第1章 ロジカルとは何か(設問1-7)

論理思考、ロジカル・シンキングが普及してきたと述べましたが、“ロジカルとは何か?”、“論理とは何か?”の理解はなかなか進んでいないようです。

「業界の論理はそんなもんじゃない!」

「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」

というように、安易に使われることもあります。

あるいは、論理と屁理屈の区別がつかない人もかなりいるようです。そこで、この章では、論理とは何か、ロジックとどう違うのかを考えてみましょう。

ロジカル会話問題集設問2「活字を疑え!クリティカルな視点を持つ」

「現役生は試験当日まで学力が伸びる」という予備校の宣伝文句があります。

下記の中で確実に言えるのは?

A:浪人生は試験当日まで学力が伸びない

B:試験当日まで学力が伸びるのは現役生だけである

C:試験当日まで学力が伸びない人の中には現役生はいない

D:浪人生でも試験前なら学力が伸びる

E:上記のいずれでもない

ロジカル会話問題集 設問2解説

現役生はすべて学力が伸びるのか?

 さて、この設問2はおもしろい傾向があります。私が行ったセミナー全体での正答率は49.3%と当たる人とはずす人は半々なのです。ところが、新人研修(参加者は院卒もふくむ)で行った時は27.3%、他にも20代の参加者が多い場合はやはり正答率が3割を下回っています。

 企業研修の時、グループで討議してもらってグループの見解を求めるエクササイズを行うことがありますが、その時の会話で、現役合格者vs浪人経験者の議論になることがあります。〈試験当日まで学力が伸びない人の中には現役生はいない〉や稀ですが〈浪人生は試験当日まで学力が伸びない〉を選んだ現役合格者が「現役って、やっぱりそう(試験の当日まで伸びる)ですよね!」と言って、「そんなことないでしょ!」と〈浪人生でも試験前なら学力が伸びる〉を選んだ浪人経験者の発言を誘発してしまうのです。どうやら、若手の場合、まだ受験の記憶をひきずってしまうようです。

 反対に、この問題、部長研修など、ベテランが多い集団では正答率が高く出ています。彼らから見れば、受験は遠い昔のことであり、現役も浪人もそれほどムキにならなくていいトピックなのでしょう。そうすると、「これって、予備校の広告でしょ。だったら、本当かどうかわからないじゃない」と言って、正解のが導き出せるのです。つまり、宣伝文句自体の妥当性が問われていたのです。

 念のため、はずす人が必ずしも受験の記憶をひきずっているわけではありません。論理の基礎を学んだ人でもはずすことがあります。あくまでも論拠の妥当性を問わなければならないのです。この場合、宣伝文句そのものの妥当性がなければ選択肢の推論は成り立ちません。

 以前、某雑誌(仮にX誌としよう)に、「日本人がチームワークが得意なのはDNAのおかげ」というような見出しの記事がありました。この記事、文中では「DNAの行動に及ぼす影響はよくわかっていない」とも述べてあったり(断定できないことの担保として書いた意図もあるでしょうが)、他にも論理的にはかなり迷走した文章であったので、研修の教材としてうってつけでした。

 興味深いのは参加者からの発言です。

「X誌でも、こんな(ロジカルではない)記事があるんですね!」と言った人と、

「でも、X誌でしょ。まあ、そんなもんでしょ」と言った人がいたのです。

 二人は正反対の前提を持っていることが理解できます。前者はX誌に対する期待が高く、後者は低いのです。期待が高いのは結構ですが、依存しすぎては思考停止になってしまいます。

思考放棄症・思考依存症

 思考停止という言葉は、最近よく使われるようになっていますが、その原因は思考習慣にあり、ということで、以前『頭の生活習慣病克服法』(船川淳志、講談社)という本を書きました。思考が止まる原因について、自ら放棄する「思考放棄症」と依存しているために自分のアタマで考えられなくなるという「思考依存症」と名づけました。

 依存するもとによって、次ページのように4つに分類できます。つまり、「X誌でも」と言った人は権威への依存に該当します。職場やアカデミズムの世界でもよく登場します。

「社長が言ってるじゃないですか……」

「この分野の第一人者の○○先生が言っているように」

 という具合です。我々も使うことがあるし、「権威の有効利用」は説得力を持つのも確かですが、「依存症」なのか、「有効利用」かの違いは、自らの頭で考えているか、否かです。要するに、情報、特に活字をみにしない習慣を身につけることです。

 パソコンとプリンターがこれだけ手軽に使える時代では、もはや活字は権威ではありません。それでも、印刷された活字は鵜呑みにされやすいのです。かつて、メールを証拠に国会で騒動を起こした議員がいました。まあ、彼ほどではなくとも、活字、特に新聞や本をすぐに鵜呑みにしないことです。情報が錯綜し混乱しやすい現代では物事を冷静に検証するクリティカルな視点を持つ習慣がますます必要なのです。

ロジカル会話問題集設問2 回答

正解はE

まずは宣伝文句の妥当性を考えることがポイント

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)