「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第1章 ロジカルとは何か(設問1-7)

論理思考、ロジカル・シンキングが普及してきたと述べましたが、“ロジカルとは何か?”、“論理とは何か?”の理解はなかなか進んでいないようです。

「業界の論理はそんなもんじゃない!」

「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」

というように、安易に使われることもあります。

あるいは、論理と屁理屈の区別がつかない人もかなりいるようです。そこで、この章では、論理とは何か、ロジックとどう違うのかを考えてみましょう。

ロジカル会話問題集設問3「まず前提を押さえることから始めよう」

「近年何でも規制緩和の方向で物事が進んでいる。規制がなくなることで貧富の差が拡大するのは、一連の状況を見れば明らかだ。こうした規制緩和政策をとり続けると、市場原理主義者の思う壺だ」

 このジャーナリストの発言の

前提にあるものを一つ選ぶと?

A:市場原理主義者は規制に反対である

B:規制の多さと経済成長性には相関関係は見られない

C:規制は既得権益を守る方向で働く

D:規制は社会的弱者の救済を主眼にしたものである

E:今後は国としての活力を高める経済政策に主眼を置くべきである

ロジカル会話問題集 設問3解説

ロジカル会話の第一歩:隠れた前提を探すことが必要

 ロジカル会話の第一歩は、お互いの前提を理解するところから始まります。かみ合わない会話はほとんどの場合、お互いにお互いの前提を理解できていないことが原因なのです。相手の話の前提をまず理解する。設問3はそのトレーニングです。

 前提を押さえよう、というと人によっては肩に力が入ってしまうことがあるようです。典型的なのは、大げさな前提を作り上げてしまう、というパターンです。「世界は平和であるべき」「人間は自由で平等なものだ」などなど。

 この設問3で言えば、〈今後は国としての活力を高める経済政策に主眼を置くべきである〉のような前提は、確かにジャーナリストの価値観としてはあるのかもしれません。しかし、少なくとも設問にある「この発言の前提」かというと大げさすぎますよね。発言の内容に沿った前提かどうか、ということに注意してください。

 また、当然に思える内容が前提とは限らない、ということも注意しましょう。例えば、〈規制は既得権益を守る方向で働く〉などは内容自体当然のように感じます。ただし、論拠を見れば明らかなように、この発言の前提としては関係ありません。このように、内容として違和感を覚えないもので、かつ主張の話題と近いものを、私たちは前提と捉えがちです。しかし、そうすると話がトンチンカンな方向に進んでしまうことがあるのです。

 似たような話として、細部の発言に関する前提にこだわることもよくあります。例えば、〈市場原理主義者は規制に反対である〉は確かにこのジャーナリストが考えていることの前提と言えます。しかし、が前提となるのは「こうした規制緩和政策を採り続けると、市場原理主義者の思う壺だ」という部分についてだけですね。こうした主張の一部の前提をことさらに取り上げると、揚げ足取りの対話になりかねません。

 さて、このジャーナリストは結局のところ何が言いたいのでしょうか。文章を読めば、規制緩和の推進はあまりすべきでない、と言っていることがわかります。次に、その論拠に何をあげているのかを見てみましょう。読んでみると、貧富の差が拡大することをあげているのがわかりますね。規制緩和を推進すると貧富の差が拡大すると考えている、ということは、規制には貧富の差を抑える機能があると考えているのでしょう。つまり、このジャーナリストの主張の前提として、〈規制は社会的弱者の救済を主眼としたものである〉であることがわかります。

論理の前提が違うことを理解しないと話がかみ合わない

 前問で例にあげた雑誌の例でもおわかりのように、同じ記事を見ても、人によって考えることは変わってきます。それは、その雑誌に対する期待という前提が違っているからです。両者の前提が違うということを理解しておかないと、話がかみ合わなくなってしまいます。

 例えば、もともとX誌に期待していない人が「X誌でもこんなロジカルでない記事があるなんて意外ですね」という話を聞くと、どんなふうに感じるでしょうか。「的外れなことを言っているなあ。この人はX誌をちゃんと読んでいるの?」と感じてしまいますよね。そうすると、お互いを非難しあったりして、話がかみ合わなくなるのです。

人はなぜ異なる前提を持つのか

 では、なぜ人は異なる前提を持つのでしょうか。それは価値観や信条など、お互い背負い込んでいるものが違っているからです。もちろん価値観や信条などという大げさなことを言わなくても、専門領域の違いや日々の印象の積み重ねなどが異なる前提を生み出すこともあります。

 さらにたちの悪いことに、こうした前提というのは見えづらいし聞こえづらいものです。なぜなら、人は自分の前提を明確に述べたりしないからです。例えば、「私はX誌には日ごろから大変期待しています。にもかかわらずこんな論理的に迷走した記事を目にして、日ごろの期待とのギャップの大きさに驚いています」などと言う人にはあまりお目にかかりません。

「前提を押さえる」とは主張と論拠のミッシングリンクを探すこと

 では、どうすればよいのでしょうか。それは相手が何の話をしているのかを理解することです。前提を押さえるというと、何か難しいことをしなければならないと感じるかもしれません。発言した人の思想や価値観まで探らないとつかめないのではないか、と。でも、ここまで読んでいただければ、そんなことはないことが理解できるでしょう。要は話した内容を冷静に理解してから、主張と論拠のミッシングリンク(欠落点)を探していけばよいのです。

 ロジカル会話問題集設問3 回答

正解はD

規制緩和を推進すると貧富の差が拡大するという論旨。

「規制は社会的弱者を救済するものだ」というのが前提となっている

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)