「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第2章 因果関係に強くなる(設問8-14)

大声で泣けばお母さんがすぐ来る。

ベッドから落ちると痛い。

幼児がいろいろなことを早く学ぶのは、このように、原因と結果が近くてわかりやすい環境、つまり因果関係が単純な状況に居るからです。ところが、大人になると、因果関係は複雑になってきます。結果がわかるまでの時間は長く、どれが本当の原因なのかわかりにくいことのほうが多いのです。

それでも、何が本当の原因かを考える姿勢は思考力を伸ばす上では欠かせません。

この章では、ロジカルシンキングの基本、因果関係を見きわめるコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問10「人気シリーズは凋落の一途をたどる?」

田中「米国の人気映画シリーズ『ルーキー5』の日本での興行収入が伸び悩んでいるらしい。過去4作と比べると驚くほど低調だ。もうルーキーシリーズの人気も地に落ちたな」

山田「過去のルーキーシリーズが上映された頃と比べて、日本では映画全体の興行収入が落ちてきています。従って、……」

 次に続く山田氏の発言として、

もっとも適切なものは?

A:今後、映画産業はジリ貧になるでしょう

B:「ルーキー5」の興行収入低迷の原因は、ルーキーシリーズの人気低下ではないでしょう

C:映画産業はインターネットなどのエンターテインメントに侵食されてきているのです

D:米国ではルーキーシリーズの人気は根強いので、人気が落ちたと判断するのは性急ですよ

E:映画産業もシリーズものに安易に依存する考え方を改めたほうがいいですね

ロジカル会話問題集 設問10解説

因果関係の法則2 相関関係は?

前の設問9で、因果関係には時間的順序があること、つまり原因が先で結果は後となることを見てきました。ただし、時間的順序があれば必ず因果関係があるかと言えば、そうではありません。

 例えば、ある資格試験に合格した前日にトンカツを食べたとしたら、試験合格の原因がトンカツと考え、今後何か試験があるたびに、かならず前日トンカツを食べるというようなことは、時間的な前後関係でしか因果関係を見ていない典型です。冷静に考えれば、それが試験合格の原因になるとは考えにくい。

 そうは言っても「もしや」、ということがあるかもしれません。そのような場合は、相関関係を調べればよいのです。つまり、他の試験の時にも前日にトンカツを食べたかどうかを調べ、合否に明確な傾向が見られるかどうかをチェックすればよいのです。例えば、のように「トンカツを食べて合格した」場合と、「トンカツを食べずに不合格」の場合が極端に多い場合には、両者に相関関係があります。逆の傾向や明確な傾向がない場合は、相関関係がないことがわかります。

 相関関係がなければ因果関係はありません。原因と思われたものが発生しても結果が出てくるかどうかわからないのなら、原因とは言えません。(ただし、相関関係があるからといって、即因果関係がある、ということにはなりません。くわしくは設問13に述べます)

 ここまでくれば、設問10も指摘すべきことは見えてきますね。ルーキーシリーズの人気と興行成績に相関関係はあるかもしれませんが、両者の相関関係を示すものがありません。1回の興行成績と最近の人気だけで相関関係があるとするのは、相当強引です。

 さらに山田氏の発言を見れば、興行成績により強い関係も持つものとして、国内全体での興行収入があげられています。その点を指摘し、どちらが原因として適切なのかを会話を進めていく、つまり、〈「ルーキー5」の興行収入低迷の原因は、ルーキーシリーズの人気低下ではないでしょう〉のような考え方のほうが妥当だと言えます。

 因果関係という観点から見るとこの問題の解説は終わりなのですが、この問題を単に因果関係の話だけで終わりにしてしまうのは、実は非常にもったいない。というのは、山田氏の「従って」という言葉からどのようにつなげていくかが、この問題でもっとも難しいところだからです。田中氏の発言がなく、山田氏の「過去のルーキーシリーズが上映された頃と比べて、日本では映画全体の興行収入が落ちてきています」という発言だけを見ると、「従って」という言葉で山田氏の発言をつなげるだけなら、〈今後、映画産業はジリ貧になるでしょう〉、〈映画産業はインターネットなどのエンターテインメントに侵食されてきているのです〉、〈米国ではルーキーシリーズの人気は根強いので、人気が落ちたと判断するのは性急ですよ〉あたりはあまり違和感なくつなげることができるのです。

 つまり、会話の場合は、ある発言に対していろいろなパターンで会話を進めることができます。しかし、それではしだいに関係のない話になっていってしまいます。

 このように、一つ一つの発言に多少関連しているだけの別の話を持ち出して会話をつなげるのではなく、会話全体としての流れに沿って展開することを心がけなければ、会話自体がかみ合わなくなってしまいます。

 また、〈映画産業もシリーズものに安易に依存する考え方を改めたほうがいいですね〉のように、ある人の話した内容を呼び水に、何か教訓じみたことを言って満足してしまうケースも多く見られます。因果関係もろくに検証せずに結論を言うのは、飲み屋での放談レベルならば許されるかもしれません。しかし、もう少し真剣に会話をしている場面では誤った判断を招くことになります。  因果関係をつかむには、単に時間的関係をつかむだけではなく、原因と結果の間に相関関係はないかを見ることが必要になります。表面的な関係にとらわれずに原因との関係を掘り下げていきましょう。

ロジカル会話問題集 設問10 回答

正解はB

ルーキーシリーズの低迷は、作品そのものの人気低下だけでなく日本映画全体の興行収入とも相関がある

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)