「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第2章 因果関係に強くなる(設問8-14)

大声で泣けばお母さんがすぐ来る。

ベッドから落ちると痛い。

幼児がいろいろなことを早く学ぶのは、このように、原因と結果が近くてわかりやすい環境、つまり因果関係が単純な状況に居るからです。ところが、大人になると、因果関係は複雑になってきます。結果がわかるまでの時間は長く、どれが本当の原因なのかわかりにくいことのほうが多いのです。

それでも、何が本当の原因かを考える姿勢は思考力を伸ばす上では欠かせません。

この章では、ロジカルシンキングの基本、因果関係を見きわめるコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問12「ネット社会が若者の能力を低下させたか?」

野村「若者のコミュニケーション能力の低下は目を覆うばかりだ。その元凶はやはりインターネット。最近の調査でも、若者がパソコンに向かう時間は年々増えている」

古田「それはどうですかね。確かに、ネット社会は我々の生活様式もコミュニケーションのとり方も変えたでしょう。でも、以前から若者のコミュニケーション能力の低下は言われていたことだし」

野村「君はネット擁護派だから、そんなことを言うんだ」

古田「そういう話ではなくて。ではうかがいますが……」

 この後、野村氏への反論として

もっとも効果的なものを一つ選ぶと?

A:パソコンに向かっている時間はネットを使っている時間なのですか?

B:パソコン使用時間はどのぐらい増えているのですか?

C:ネットを利用していない若者の比率はどのぐらいなのですか?

D:外国でも同じ問題が起きているのですか?

E:あなたの世代ではこのような問題は起きていなかったのですか?

ロジカル会話問題集 設問12解説

「一致法」「差異法」の応用

 因果関係が成り立っているか、否か、その判別をしやすいのは原因と結果が一対一で対応している場合です。例えば、「電池が切れたからモーターが止まった」という事象です。ところが、我々が直面する社会の問題、ビジネスの課題となると、このような因果が単純なモデルはむしろ例外で、多くの場合、因果が複雑になっているのです。

 従って、近視眼的に物事を見たり、決めつけたりしないことが重要なのです。

 それにもかかわらず、この問題の野村氏のように一方的に決めつけた発言をする人は少なくありません。この設問12、セミナーでの正答率は20.5%とかなりの難問です。

 セミナーで参加者の発言を聞いていると、誤った解答を出してしまう方はどうやら2つパターンがあるようです。

 第一に、「反論」に目を奪われて、「攻撃モード」の〈あなたの世代ではこのような問題は起きていなかったのですか?〉を選んでしまうことです。問題文に登場する野村氏は古田氏よりも上の世代であることと、古田氏を「ネット擁護派」とラべリングをしていることから、野村氏はどうも「アンチネット派」であることも読み取れるでしょう。その野村氏の世代にも、若者のコミュニケーションは低下していなかったのか、と考えてもらいたい意図は理解できますが、攻撃と受け取られやすいのです。

 解答を誤るもう一つのパターンは、野村氏の発言「若者がパソコンに向かう時間は年々増えている」があることから、選択肢の〈パソコンに向かっている時間はネットを使っている時間なのか?〉という細かい分析に飛びついてしまうことです。確かに、パソコン使用時間の中でネット使用時間を検証してみないと、野村氏があげている論拠の妥当性は問えません。ただし、この会話では、古田氏はすでにネット社会がもたらした変化をみとめているのです。つまり、仮にパソコン使用時間の中でネット使用時間の比率が低くても、ネット社会がもたらした社会の変化について両者はともに言及しているのです。

 さて、ここまで来ると、正解がどれであるか、絞り込まれてきましたね。正解は〈外国でも同じ問題が起きているのですか?〉です。

 この設問12は因果関係を検証するために効果的な「一致法」とか「差異法」と呼ばれる手法の応用です。

 先に因果の単純な事例として「電池が切れたからモーターが止まった」と書きましたが、電池で動くオモチャが止まったとします。新しい電池を入れて動くならば、電池切れが原因であるとすぐにわかります。つまり、電池の入れ替えによって差異を確認したわけです(差異法)。また、同じタイプのオモチャがあれば動かなかったオモチャの電池を入れて、やはり動かないという結果の一致を見ることによって、原因は電池であるとわかります(一致法)

 さて、オモチャの場合は他の原因としては、モーターの故障、電極の接触不良など、限られているからまだ原因の判別はラクなのです。ところが、先に述べたように、私たちが直面している課題はさまざまな要素要因が絡み合っているのです。

根本的な原因を考える効果的な質問

 それでも、原因と見られる要因が根本的な原因なのかどうかを考えるために「一致法」や「差異法」を応用した効果的な質問があります。「他の○○では同じ問題は起きていないのですか?」という質問です。これは、事例であげた「ほかのオモチャはどうなのか?」という質問と同じ構造です。

 ○○には学校、会社、そして国を入れることができます。つまり、現象が起きている主体や場面を置き換えて考えることです。

 例えば、「コンプライアンスは諸悪の根源である。コンプライアンスを導入したために、社員は疑心暗鬼になり、人間関係がギスギスしてきた」と言っている人に対しては、「他の会社ではそうなのでしょうか?」と尋ねてみることです。ただしこの場合、「他の会社」がコンプライアンスを導入していなければ、この質問は意味がありません。

 もし、他の会社で「人間関係がギスギス」していないことがわかれば、それも十分なサンプルが集まれば、原因は他の要素(例えば、業績、経営スタイル、企業文化など)が考えられます。

 日常の会話では、そこまで求められないにせよ、この主体や場面を置き換えて考えてみる質問は効果的です。  インターネットの利用人口は今や11.5億人を超えるほど、世界中に広まっています。しかも、その普及スピードはこれまでにないほど急速なものです。こうしたネットの特性を考慮すると、「他の国でも同じ問題は起きていないか?」と問うことは効果的な質問なのです。

ロジカル会話問題集 設問12 回答

正解はD

根本的な原因を探すためには、「他の○○では同じ問題は起きていないのですか?」という質問が効果的

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)