「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第3章 ロジックの基本、演繹と帰納(設問15-21)

論理アタマをつくるには、最低必要な原理原則を理解しなければなりません。

そうでないと、第1章でも紹介したように「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」という詭弁の罠にはまってしまったり、勝手な屁理屈と区別することもできません。

その意味で、演繹と帰納は論理アタマをつくる必須の原理原則の一つです。この二つは中学や高校でも学んでいるのですが、より実践的な学び方をこの章で紹介しましょう。

ロジカル会話問題集 設問21「企業再生は外国人トップにかぎる!?」

 田中「ジャック・ウエルチはGEを再生させた。カルロス・ゴーンは日産を再生させた。ルー・ガスナーはIBMを再生させた。企業再生は外国人でなければ無理なのだろう」

佐藤「それは、どうかな……」

 田中氏の発言を検証するために、

佐藤氏のもっとも効果的な質問を一つ選ぶと?

A:日本人のトップでも企業再生に成功した人を知らないのですか?

B:外国人のトップでも企業再生に失敗した人を知らないのですか? 

C:3人以外に外国人トップで企業再生に成功した人の名前をあげられますか?

D:そもそもトップの力だけで企業再生を成功できると思いますか?

E:3人の共通要素は他にありませんか?

ロジカル会話問題集 設問21解説

帰納法の落とし穴──その2

 この設問21、ここまで読んでいただいた読者ならそれほど難しくはないでしょう。しかし、セミナーで出題すると、からまでの回答が出るのです。

 まず、〈日本人のトップでも企業再生に成功した人を知らないのですか?〉と質問した時の田中氏の反論は2つ予想されます。一つは「知らない。そもそも日本人トップは少数だから、私が知らないのは当然だろう」などと居直られてしまうかもしれません。もう一つの反論は「知ってるよ。例えば、アサヒビールを立て直した樋口さんとか。でも、じゃあ、あなたは日本人トップで他に何人知っている? こちらは3人だけじゃないぞ!」とか「もの知り派」だと完全に相手のペースに巻き込まれてしまうのです。

 〈外国人のトップでも企業再生に失敗した人を知らないのですか?〉も同様です。居直ったり、もの知り派にたたみかけられなくても、「確かに失敗している人はいるかもしれないけど、企業再生に成功したトップで見たら、やはり外国人が多いのではないのでしょうか?」と相対的な比較論に持ってこられてもやっかいです。

 まして、〈3人以外に外国人トップで企業再生に成功した人の名前をあげられますか?〉のように相手の知識を攻撃するのは、下手したら返り討ちにあうかもしれません。何しろ、相手はゴーンやウエルチだけではなく、ガスナーまで出してきていますから。

 以上、見てきたように、各反論に共通しているのは、「知識比べ」になりやすいことです。そう言えば、テレビの討論番組などで相手の知識不足をやりこめようとする「知識人」が時々目につきます。

 これまで紹介してきたように、ロジカル会話はThinking(思考)を発揮することがポイントです。相手の話を聞きながら、おかしなことがないのか検証するには、効果的な質問をすればいいのです。

因数分解で何を抽出するか

 ただし、質問をする際にはあくまでも論点と論脈という議論の流れ(線)が大事です。議論の流れが広がりすぎるとメインの論脈がどこにあるのか、支流に入っているのか、お互いにわからなくなることがあります。その意味で〈そもそもトップの力だけで企業再生を成功できると思いますか?〉は確かに言えることなのですが、まずは論点(企業再生は外国人に限るのか?)に戻って考えることが必要です。 帰納法のチェックポイントは、共通する事実の「くくり方」で、出てくる結論は変わるということです。言い換えると、因数分解で何を抽出するかということ。ゴーン、ウエルチ、ガスナーと並べてすぐに「外国人」でくくってはいけなかったのです。そのことを気づいてもらう効果的な質問は〈3人の共通要素は他にはありませんか?〉になります。

 つまり、相手の帰納法でならべた事実の因数分解をやり直してもらえればいいのです。

 もちろん、この質問を実際にする時は定規に同じセリフを言っても、効果がありません。例えば、ガスナー氏のことをよく知らなかったとしたら、それをうまく使って、

「なるほど……。ところで、ガスナーさんってどういう方なんですか、ウエルチは聞いたことがあったけど……」とたずねると、

「彼はすごく有能な経営者で、IBMの前は……」と自然に外国人以外の属性を話してくれるかもしれません。そしたら、「有能な経営者なんですね……、ところで、具体的には彼らに共通しているのは?」と続けると企業再生を実現しうる変革リーダーの要件が出てくるでしょう。くわえて、声のトーンやボディランゲージという非言語の要素も影響します。

 この問題は冷静に考えれば決して難しくないのですが、世の中に、特にマスコミはこうした論法を好む傾向があります。すでに第1章でロジックについては説明しました。出身企業や学校名などを出されると、ついついそうなのか……と納得してしまうことがあると述べました。ガスナー氏で言えれば、もともとハーバードビジネススクール(HBS)を出て、マッキンゼーに入社していますから、「やはり、HBS出身者は違う!」とかマッキンゼー出身者だから、と思い込みやすいのです。

 実際、マッキンゼー出身者は経営トップとしても活躍している人が多いので、欧米ではずいぶん前から「マッキンゼーマフィア」と言われていました。  冷静に考えてみたら、HBSだろうがマッキンゼーであろうが、要はスキルを身につけ、鍛えられているかどうか、ということなのです。属性の因数分解には注意したいものです。

ロジカル会話問題集 設問21 回答

正解はE

帰納法の「くくり方(因数分解)」には要注意。

ある一つの属性だけで安直な判断をしないこと

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)