「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第4章 メタファーとアナロジー(設問22-28)

メタファー(比喩)やアナロジー(類推)は我々の思考力の基本動作とも言える身近なものです。

これらをうまく使うと、思考力を活性化し、ものごとの理解を助けたり、会話に深みを持たせたり、うまく進めることができます。

同時に、関連のないメタファーやアナロジーの誤用は、思考や会話の混乱を引き起こします。

そこで、この章では、メタファーやアナロジーをうまく使いこなすコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問25「転職を阻むものは?」

「高橋君は転職希望だと前から聞いていた。しかし、勤めている会社が早期退職制度を検討しているという話を聞いてから、転職活動をやめているようだ。どうやら、早期退職制度ができてから転職しようという算段らしい。まったく高橋君らしいが、それではまるで……」

この発言の後半に続くものとして

もっとも妥当なものは?

A:ビールをおいしく飲むためにジョギングをするようなものだね

B:遠くの店の買い物ポイントをためるために、今すぐ必要な商品の購入を我慢するようなものだね

C:英会話の力を鍛えるのに、洋書を読んでばかりいるようなものだね

D:着る場面もないのに、世間体を気にして高価なスーツを買い集めるようなものだね

E:人気のラーメン屋に行ったら行列だったので、その近くのファーストフード店に入るようなものだね

ロジカル会話問題集 設問25解説

メタファーの精度を高めよう

 前の設問24を通してわかったことは、「メタファーの精度を高めるには、比喩したいものとメタファーとの間に、a:b=c:dの関係を維持することが大事」でした。もう一問、状況をメタファーで表現する問題を使って、メタファーの精度を高める訓練をしましょう。

 まず、設問25の問題文を読んでみると、高橋君はどうやら本来の目的である転職を忘れて、目の前にぶらさがった早期退職制度の恩恵をあずかろうとしているようです。その態度をメタファーで表現しようとしているようですね。となると、本来の目的にあっていない行動をとるようなメタファーを考えればよいことになります。

 しかし、この問題の選択肢は、どれも目的に合致していない行動をとってしまった状況のメタファーです。では、どれを使っても、高橋君の状況をわかりやすく説明することができているでしょうか?

 それぞれの選択肢で取ろうとしている行動は、何を目的として、何を重視しているか、具体的に見ていきましょう。まず〈ビールをおいしく飲むためにジョギングをするようなものだね〉は、ジョギング本来の目的として考えられる体力増進やダイエットを忘れてしまって、ジョギングをすることでビールがよりおいしくなるという、本来避けるべきことを目的にしてしまったという例です。

 次に〈遠くの店の買い物ポイントをためるために、今すぐ必要な商品の購入を我慢するようなものだね〉はどうでしょうか。ここでは商品を買うという目的以上に、買い物でつくポイントをゲットするという、買い物によって付随的に発生するメリットに目が行ってしまって、肝心の買い物ができない、という例ですね。

 〈英会話の力を鍛えるのに、洋書を読んでばかりいるようなものだね〉はと見ると、目的とする対象がずれてしまっていますね。「英語」という点では共通しているが、具体的に鍛えたいこと(ここでは英会話)と、とっている行動(洋書を読む)がずれてしまっています。だから、本来の目的からずれたことをしているように見えます。

 さらに〈着る場面もないのに、世間体を気にして高価なスーツを買い集めるようなものだね〉を見てみると、衣服は本来着る場面を想定して購入するはずなのに、世間体のほうを重視した購入をしてしまっています。つまり、これは実用的な目的以外のものを重視してしまった例ですね。

 最後に〈人気のラーメン屋に行ったら行列だったので、その近くのファーストフード店に入るようなものだね〉を見てみましょう。当初は人気のラーメン店で食事をとる予定だったのが、行列待ちという現実を目の当たりにして、最終的には並ばずに食事をとることが目的となってしまっています。ということは、目的が当初のものからすり替わってしまった例と言えます。

同じように見えるメタファーでも微妙に中身が違う

 こうしてみると、同じように見える「目的と行動が合致していない」メタファーといっても、微妙にその中身は違っていますね。問題文は結局、上記のどれに近いのでしょうか。ここでは、転職するという本来的な目的があるはずなのに、早期退職制度で獲得できるだろう退職金等という付随的なものに目がくらんで、転職しようとしていない、つまりで見たような、付随的な目的を優先しているメタファーと同じ構造ですね。

 では、他の選択肢のようなメタファーで表現した場合、どんなふうに聞こえるでしょうか? a:b=c:dの対応関係に注意して見ていきましょう。まずでは、まるで早期退職制度を利用するために転職するように聞こえます。それは高橋君の意図(早期退職制度を活用してから転職したい)をねじ曲げて伝えることになります。次にでは、早期退職制度が転職活動の一手段のようなものになってしまいます。これはおかしな話ですね。またでは、転職をする機会もないのに、早期退職制度を活用することを考えている、という状況ならわかりますが、高橋君のしたいことは転職ですから、これも本来の状況を正確に伝えていません。最後のはどうでしょうか? このメタファーだと転職活動をしようと思ったらできなかったので、早期退職制度を活用したという意味になりますが、これもおかしな内容となってしまいます。  メタファーはイメージしやすくわかりやすい、というメリットがあります。それは、よいメタファーが効果的に伝えることをサポートする反面、悪いメタファーは逆に自分の言いたいことを曲解させてしまうという諸刃の剣のようなものです。まずは、メタファーで表したい状況を正確に理解することを心がけたいものです。

ロジカル会話問題集 設問25 回答

正解はB

適正なメタファーは伝達力を高める。

その際に相似性をチェックすること

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)