「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第4章 メタファーとアナロジー(設問22-28)

メタファー(比喩)やアナロジー(類推)は我々の思考力の基本動作とも言える身近なものです。

これらをうまく使うと、思考力を活性化し、ものごとの理解を助けたり、会話に深みを持たせたり、うまく進めることができます。

同時に、関連のないメタファーやアナロジーの誤用は、思考や会話の混乱を引き起こします。

そこで、この章では、メタファーやアナロジーをうまく使いこなすコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問26「PTAの議論の交通整理。もっとも近い比喩は?」

以下は現在の小学生に対する教育に関する議論。

田中「国際比較で日本の学力低下が問題視されている。その向上のために総学習時間を増加させるべきだ」

佐藤「最近キレる子供が増えている。人間らしい感受性を養うために、人を思いやる気持ちを育む教育を」

池田「父兄からは実社会で役立つ教育の声が高まっている。その声にこたえるために、実践的な内容の科目を新たに作るべきだ」

山田「議論の交通整理をしたほうがよさそうですね。みなさんの意見を聞いていると、○○○ように感じます」

 山田氏の発言の○○○として、この議論の状況を

もっとも的確に表現したものは?

A:同じ目的地にどの交通手段で行くか意見が割れている

B:抜け道を使ったのに、余計に時間がかかっている

C:最短距離がわかっていながらわざわざ遠回りしている

D:1台の車しかないのに、同時に行きたいところを言い合っているE:道を譲り合わず、割り込み運転が横行している

ロジカル会話問題集 設問26解説

うまい喩えで議論もまとまる!?

 これまで見てきたように日常会話で置き換えをしたりメタファーを活用する場面とは別に、議論をしている最中にメタファーを使うこともあります。議論の最中にメタファーを使うのは、いろいろな意味で効果的です。

 1.   紛糾しそうな場でその場を和ませるようなメタファーを使えば、雰囲気を改善することができる。

 2.   直接言いにくいことを言いたい時にでも、メタファーの助けを借りれば、特定の人を不快にすることなしに、自分の言いたいことを表現することができる。

 3.   メタファーの助けを借りれば、スムーズに議論を進めたりまとめることができる。

 こうしたメリットのうち、ここでは3番目の議論を進めたりまとめたりする際に、どうやってメタファーを使うかを考えてみましょう。議論が混乱している、一度整理したほうがいいな、とあなたが感じても、なぜここで議論を整理しなければいけないのか、わからない参加者も出てくるかもしれません。そのような時に、うまく現在の状況を表すようなメタファーを活用しながら、議論を進めることができるとよいのです。

 では、問題を見ていきましょう。3人の発言を聞いてすぐに感じるのはどんなことでしょう。多分「同じ教育の話をしながら、重視させたいポイントがずれているなあ」というようなものではないでしょうか。従って、議論の整理という点から見れば、まずは「重視すべきポイントの整理」をしたほうがよいですね。その点をうまく表現することを考えましょう。

 その意味からすると、〈抜け道を使ったのに、余計に時間がかかっている〉は「議論でかかっている時間」を説明しようとしているので、この場合のメタファーとしては適切ではありません。同様に〈最短距離がわかっていながらわざわざ遠回りしている〉も、「最短距離」や「遠回り」という言葉で「議論の過程」を表現していることから、ここで言いたいメタファーからずれています。実際、この二つを回答する人はほとんど見られません。

 意外と正答のように見えるのが、E〈道を譲り合わず、割り込み運転が横行している〉のような例です。確かに、「譲り合い」「割り込み」等の表現だけ見れば、よく議論している時に行われているので、メタファーとして適切に感じられます。でも、ここで言いたいのは、意見の割り込みがあるということではありません。こうした点から、この場面で利用するメタファーとして適切とは言えません。

 となると、〈同じ目的地にどの交通手段で行くか意見が割れている〉と〈1台の車しかないのに、同時に行きたいところを言い合っている〉のどちらがメタファーとして適切か、というところに行き着きます。実際この二つの選択肢は、回答の割合も拮抗しています。

 では、どちらがメタファーとして適切なのでしょうか? ここで、3人の考える教育の大目標は同じ、と考えるのであればがよいことがわかります。しかし、このメタファーを使うと、参加者はそれぞれどのように感じるのでしょうか。「教育の大目標はわかっているが、まさにそれを達成するための交通手段をどれにしようか話しているんじゃないの?」と反論されたり、あるいは「結局山田さんは、3人の意見の違いがわかっていない」と思われてしまうかもしれません。

議論の流れを作るメタファー

 となると、教育というテーマを一つの交通手段に置き換え、各参加者がその目的を同時に言い合っているから、まずは目的地の整理から始めましょう、というのような議論の流れを作るためのメタファーがよいですね。  議論を進めたりまとめたりする時にメタファーを使う場合、単に状況を置き換えるのとは違った難しさがあります。それは、複数の発言をまとめるという難しさがあるのと同時に、それらの発言がお互いどんな関係にあり(対立しているのか、同じことを言っているだけなのか、合意に向かおうとしているのか)、自分はどのように議論を進めたいのか、まとめたいのかということを判断しなければならない点です。そのためには、議論の流れを理解した上で、精度の高いメタファーを使えるようにしたいものです。

ロジカル会話問題集 設問26 回答

正解はD

小学校教育という「議論のテーマ」は一つだが、各自が発言した教育の目的は別々の3つ。一つの「交通手段」でいろいろな「目的地」を言い合っている

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)