船川淳志と上保篤信氏

船川淳志のワークショップファシリテーションは他のファシリテーションと何が違うのか。なんとなく違うことはわかるが、企業成果、組織変革の文脈で何が違うのかピンとこない。

こんなときは事例が一番、ということで人事プロフェッショナルとして、これまで数々の企業変革に携わってこられたAU.HRコンサルティング株式会社の上保 篤信(うわぼ あつのぶ)さんに対談形式で取材を行いました。

船川淳志ファシリテーション事例対談
ーAU.HR Consulting上保篤信

海老原(司会):上保さんは人事プロフェッショナルとして複数の会社で人事責任者として企業変革を実行されています。船川さんと組んで企業変革を成功された事例がいくつかあるそうですね。
上保:はい。外資系企業でのPMI支援を5,6件手伝ってもらっています。

海老原:その中で特に印象的な事例があれば教えてください。
上保:そうですね。では、ラルフローレンでのシニアマネジメント向けワークショップのお話をしましょう。

シニアマネジメント向けPMIワークショップファシリテーション

上保:2009年に私は、外資系ラグジュアリーブランド、ラルフローレンに日本国内法人3社の合併・統合を目的に、HR Vice Presidentとして入社しました。
統合後のキックオフとして、セールス、マーケティング、人事、ファイナンス、総務、IT、マーチャンダイズ、日本法人社長の9名のシニアマネジメントの一体化を目的としてワークショップを行いました。このワークショップの設計・ファシリテーションを船川さんにお願いしました。

海老原:船川さんに伺います。このワークショップではどのようなことを行ったのでしょう。
船川:まずはアイスブレイクですね。

海老原:「アイスブレイク」といっても、船川さんのことだから「自己紹介」とかのぬるいやつじゃないですよね(笑)
船川:えびちゃん、わかってるね(笑) そうですね・・。あの時やったのは、私が身に着けていたスーツ、シャツ、ネクタイ、靴の4項目でラルフローレンのものか、否かというのを出しました。参加者の洞察力、集中力を掻き立てるというわけです。大事なことは、個人で答えて、そのあとでチームで議論。自分の思い込みに固執してはいけない、というレッスンです。

言語の壁、文化の壁を超えるバイリンガルファシリテーション

海老原:アイスブレイクのあとは、どのように進めていったのでしょう。
船川:まずは、ラルフローレンの今の立ち位置確認です。「外部環境と内部環境」「これまでと、これから」という枠組みでディスカッションしていきました。

海老原:かなりオーソドックスというか、普通ですね(笑) 上保さん、このファシリテーションで「船川さん、ならでは」というポイントはないでしょうか。
上保:そうですね。参加者が日本人と外国人が混ざっていました。英語しか話せない人が1/3、日本語しか話せない人が1/3、バイリンガルが1/3です。つまり、英語と日本語のバイリンガルファシリテーションが必要でした。

海老原:バイリンガルファシリテーションですか。なんとなくわかりますが、具体的なイメージが想像しづらいですね。船川さん、実際には、どのように進めていくのですか。
船川:日本語、英語、一方しかわからない人がいますので、ファシリテーターである私の発言は、英語・日本語両方で行います。双方向のディスカッションですから、参加者の発言は日英、英日とその場で通訳していました。
ただ「通訳」といっても、逐次通訳ではありません。参加者には、日本のおじさんもいて「どうなんだい、きみ」といった具体性のない曖昧な発言も連発するわけです。この曖昧な言葉を「通訳」して英語で伝えます。逆もしかりで、具体的で明快な論理の欧米人の発言を「通訳」して日本語で伝えます。理解レベル、教育レベルも異なる参加者で議論をかみ合わせるため、日英の通訳だけでなく、認識レベルの差を埋める通訳です。

海老原:なるほど。バイリンガルファシリテーションは、日英の言語力、ファシリテーション力は大前提。加えて、リアルタイムに文化の壁を埋めて橋渡しをする力が必要と。まさに、船川さん著書の「Transcultural Management」ですね。
船川:実践しています(笑)

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戦略論と意識改革を同時に行う

海老原:バイリンガルファシリテーションで言語と文化の壁を越えた議論を成り立たせていることはわかりました。しかし、ワークショップ参加者はシニアマネジメントですから、単に「一体感を醸成すること」がゴールではないですよね。グローバル本社の経営方針を元に、戦略をまとめることがワークショップゴールになりますか。
上保:もちろん戦略論は必要です。しかし、会社の買収・合併というのは、新しく会社を作り直すことです。戦略論と同時に社員の意識改革が必須です。浸透は上から順番が基本ですから、シニアマネジメントの意識改革から始めます。このようなときに、船川さんにファシリテーションをお願いしたい。逆に、経営戦略だけだったら船川さんに頼まないですね(笑)

戦略コンサルタントとの違い -自分事にするファシリテーション

海老原:ちょっと待ってください。そこは面白そうなので、掘り下げたいと思います。例えば、先ほどの「外部環境と内部環境」「これまでと、これから」の枠組みでのディスカッションは他の講師でもできますよね。例えば、戦略コンサルタントと船川さんのファシリテーションでは、何が違うのでしょう。
上保:会社や事業部の戦略に落とし込むことは同じです。しかし、会社を作り直す企業変革を成し遂げていくには、各事業トップが新しい会社に対して、どんな意識、心構えで取り組んでいけるかが、成否を分けます。他人事で戦略論だけこねくり回してもダメです。ビジネスプランの完成度が低くても、自分事になっていること。船川さんは、自分事にすること、その火付け役です。気合い注入ですね(笑)

海老原:なるほど。それは、船川さんらしいですね。何か意識していることはありますか。
船川:これは、アリコ・ジャパンでの経営戦略策定が原体験です。立派な戦略は作ったが、動いていかない。まさに絵に描いた餅です。歯がゆい想いをしました。ファイナルタッチ、ヒューマンタッチが足りない。自分事として、向き合ってもらいたい。

リーダーシップ研修との違い -個と組織をつなぐファシリテーション

海老原:別の視点から質問です。先ほど戦略コンサルタントとの違いをお聞きしました。意識改革が必要であれば、リーダーシップ研修も選択肢ですよね。リーダーシップ研修と何が違いますか。
船川リーダーシップ研修の問題点は、個で終わってしまいがちということでしょう。個と組織が分離されてしまう。個と組織の橋渡しがしっかりされていれば、その後組織がうごいていきやすい。各シニアマネジャーが会社・事業に魂込めて、次に進めていってくれる。
「本当に自分の組織の中で実行していけるの?「本当にドライブしようと」突きつける。
上保人事からすると、各ファンクションで自発的、自立的に動く人材がいないと企業変革はできません。組織の目標、戦略を自分の中に落とし込み、自己と組織のブリッジが出来ていれば魂を込めて次に進めてくれる。その後組織が動いていきやすい。船川さんには、ワークショップを通じて、企業変革の地ならし、きっかけ作りをお願いしています。

海老原:なるほど。 私も自社のマーケティング戦略を考えるワークショップ講師をすることがあるのですが、一番苦労するのが受講者のマインドセットです。正直受講者の考えた戦略はいくらでもフィードバック余地、改善余地があります。しかし、講師がいくらフィードバックしても、しっかり自分事として受け止め大きく戦略を改善してくる人と、表面的な修正しかしない人に二分されます。両者の違いはスキルじゃないんですよね。マインドセットの差、意識の差。マインドセットができてれば、スキルは講師が補える。

自己と組織のブリッジを掛けるファシリテーションとは

海老原:船川さん、「自己と組織のブリッジが必要」という理屈はわかりますが、実際に行うのは私の経験からもすごく難しいと思います。具体的にどのようなワークショップで、どのようなファシリテーションになるのでしょうか。

船川:なかなか言葉だけでは、難しいですね。体験してもらわないと(笑)。

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まず、ワークショップの設計の際に、参加者にどこまで到達してほしいのか?を明確に、且つ現実的に確認する必要があります。現状の認識ですらバラバラなところをそろえるのか?目指す方向に合意を得るのか?合意形成だけではなく、コミットメントをつくらなければならないなら、それなりの時間も日数も必要です。いわゆるワークショップのアウトカムですが、依頼をしてくる事務局自体のバイアスも考慮しなければなりません。

ワークショップでは参加者の一人一人に向き合う

 加えて、参加者の議論する能力、受け入れ度合いも大きく影響してきます。そうして、いざワークショップに入ったら、参加者一人一人に注力し、発言からうかがえる思考パターン、変化への抵抗なども見ながら、全体の流れを求められるアウトカムへ向けてもっていきます。通常、斜めに構えていたり、抵抗勢力はあって当然(笑)というスタンスですから、むしろ、そうした方の発言は拾いながら突破口を探します。
 例えば、「こんなことをやって、本当にうまくいくんですか?」という発言があったとします。この場合、すぐに代案を求めてしまう方が多いようですが、その前に「と言われますのは?」とか「とおっしゃいますと、どのあたりがうまくいかないと思いますか?」などと本人に尋ねながら、「発言の前提になっているもの」をあぶりだしていきます。多くの場合、本人もことばにして出してみると「そういうことだったのか!」と気づくことがあります。
 つまり、変革を阻む要因を共有してみるという作業になりますが、これにはかなり根気も必要です。そんなことを繰り返しながら、個人とチーム、そして組織の課題と展開しながら、反対に組織の課題を自分事としてとらえてもらう対話を続けていくわけです。

企業課題と個人の意識を丁寧にすりあわせる

海老原:なるほど。これは確かに言葉にしにくいですね。きれいなパワポにできない (笑)、
ワークショップの内容としては、すごく地味な作業を丁寧にやっていると感じました。
全社方針が示され、それに基づき自部門の戦略を考える。議論された戦略は論理的に正しそうに見える。しかし、なんとなく納得いかない、しっくり来ない。その納得いかないことははっきりと自覚している場合もあるが、自分自身言葉として表現できずに、なんとなく感情的なしこりとして残っているときもある。
普段は表にでにくい参加者の意識下の部分まで1つ1つ丁寧にときほぐしていって、企業課題とすりあわせていく。この「すりあわせ」をワークショップで丁寧にがっちり行うので、このあと企業変革にぶれずに立ち向かっているようになるわけですね。
(記:株式会社グローバルインパクト テクニカルパートナー&コンサルタント 海老原一司 )