船川淳志と青栁伸子氏

船川淳志のワークショップファシリテーションは他のファシリテーションと何が違うのか。なんとなく違うことはわかるが、企業成果、組織変革の文脈で何が違うのかピンとこない。

こんなときは事例が一番ということで、NOBu Consulting LLC 代表社員 青栁 伸子(あおやぎ のぶこ)さんに対談形式で取材を行いました。船川淳志ファシリテーション事例シリーズ第2弾です。

※ 写真左:NOBu Consulting LLC 代表社員 青栁 伸子 様

※ 写真右:株式会社グローバルインパクト 代表パートナー 船川敦志

船川淳志は社員の目を覚ますための「刺激剤」

海老原:青柳さんと船川さんで組んで行った企業変革ワークショップについて伺いたいと思います。まず簡単に経緯を教えていただけますか。

青柳:はい。船川さんとお会いしたとき、私は外資系ラグジュアリーブランドで人事責任者をしていました。当時は、社内の人事制度改革の真っ最中。制度設計は別の方と協力していたのですが、社員の目を覚ます「刺激剤」を投入したいと思ったのです。

海老原:確かに船川さんは「刺激が強そう」ですね(笑)

青柳:はい(笑) 変革が必要とされるなか、社内はどこかぬるい雰囲気でした。危機感がないのです。そこで、社員が自分事として危機感を抱き、外に対して目を開く。社員がお互いにストレートにものが言える状態を作れる講師が必要でした。

外資系企業の社員と言っても、元々は日本企業に勤めた気分の社員ばかりです。資本関係が変わって100%外資になったからといって、日常業務には何ら変わりがない、とのんびりしていたのです。当然のように本国経営陣の意向を汲んで動きたい「新しく入った経営層」と「元々の幹部社員」の間で溝が出来、コミュニケーションは決して円滑ではありませんでした。

幹部社員向け企業変革ワークショップファシリテーション

海老原:なるほど。具体的には、どうやって、自分事化、危機意識醸成、オープンなコミュニケーションができる環境を作っていたのでしょうか。

青柳:まず、変革の中心となる本部長4名、部長7,8名のメンバーを集めて宿泊研修を企画し、その中でワークショップを行いました。そのファシリテーションを船川さんにお願いしました。

椅子にふんぞり返っているワークショップ参加者

海老原:ワークショップ参加者は、最初どんな状態だったのでしょう。

青柳:ほぼ全員斜に構えている状態ですね。特に50代以上の社員は「何をやるんだ、やらされるんだ」と拒否感が強かったです。ワークショップが始まっても腕を組んで椅子にふんぞり返っている。もしこのワークショップが失敗したら人事制度改革も不可能、と私自身も相当の覚悟を持って臨んでいました。

海老原:なるほど。ファシリテーター側としても、かなり緊張感がありますね。このような状況では、中身の議論をする前にそもそもコミュニケーションを成立させるまでが大変そうです。船川さん、ワークショップファシリテーションはどのように進めたのでしょう。

船川:「マクドナルドの景品にかかる金額はワンシーズンでいくらになるでしょう」というグループワークをウォームアップとしてやってもらいました。いわゆる地頭力、フェルミ推定の課題です。

ポイントは調べなくても考えられること、そしてコミュニケーションをとらないとアウトプットが出せない、ということです。また景品という題材が小売の社員にとって入り込みやすいことも重要でした。

斜に構えた参加者ばかりでも撃沈しないファシリテーションとは

海老原:なるほど。まずワークのテーマを工夫したわけですね。とはいえ、ほとんどの参加者が斜に構えているような状態ですよね。グループワークのメンバー構成など、青柳さんとかなり綿密に設計されたと伺いました。しかし、事前設計だけでは、うまくワークが進む気がしません。どのようにファシリテーションしていったのでしょう。

船川:ファシリテーターにとってコミュニケーションの取り方のハードルがとても高いシチュエーションです。普通の研修ワークショップ感覚でファシったら終わり。撃沈だったでしょう。

グループワークは、いつも以上にケアしました。一つ一つグループを回って声を掛け、フォローしていきます。会話に入って質問を引き出し、発言を促していきます。

海老原:そこまでだったら私でもできますが、「撃沈」を回避できる気がしません(笑) 何か介入の仕方に秘訣があるのですか。

船川:ワークショップ参加者の発言内容はもちろん、姿勢、アイコンタクトの仕方、表情の変化などを見て対応を変えています。斜に構えている人、いやいや議論に参加している人は、体全体にそれが現れてきます。背中が語ります。発言を促しますが、見ているのはノンバーバルです。例えば、議論中に腕を組む、椅子に寄りかかる、ちょっと斜めに座る、こっちを見ていない、頷かない。こんなとき「●●さんは、どう思うんですか?」などと水を向け、口を割ってもらいます。

ファシリテーションを極めるには五感を使って経験値を積む

海老原:ちょっと待ってください。つまり、ワークショップ参加者一人一人に対して、カスタマイズした対応をしているということですか。

船川:そうです。15人のワークショップ参加者全員にノリの差があります。グループワークで一人一人の濃淡を見ながら丁寧にやっていきます。斜に構えていても、いや斜に構えているからなおさら語りたいことがある人もいるわけです。語って良いんだと思ってもらう。そのきっかけを与えてやるのが私の役割です。

海老原:理屈は分かりますが、ファシリテータースキルの観点からどのように実現しているのですか。

船川:それは、「身体知」としか言い様がないね。なぜそれが出来て、なぜそれが出来ないかが説明できない。人との会話にセンシティブであること。表情を見る。波動を感じる。これまで五感を使って対応しながらディープラーニングしてきた結果。経験値、年の功です。

海老原:なんかもう武道の世界ですね。達人が相手の気を感じて動くみたいな。

ワークショップをきっかけにマインドチェンジが起こった

海老原:ワークショップの結果何が起きたのでしょうか。

青柳:ワークショップのあとは、マインドチェンジ、行動チェンジが起きました。これまでは、「会社(経営陣)が決めてくれるからその通りに動こう」と思っていた。それが、「自分で決めて、周囲も巻き込んで動く」「自分達も変わらなくてはいけない」というマインドになってきました。

海老原:具体的にはどんな変化があったのでしょう。

青柳:何か問題があったときに、「それは●●さんが詳しい」「●●さんに聞いた方が良い」という言葉が増えてきました。それまでは、オープンなコミュニケーションがほとんどありませんでしたが、ワークショップ後は、組織の横同士の会話が成立するようになりました。また、自ら一歩を踏み出したり、踏み出す人を助けようというカルチャーチェンジ、行動チェンジが起きました。これは、ワークショップで人と話をする、相手の事を知る経験が大きかったと思います。

青柳:最終的には社内コミュニケーションの質と量が変わり、会議が「意見を出し合って決める場」になりました。それまでは、会議を開いても何も決まらない、そもそも議論にすらならないことがありましたが、同時に物事が決まるスピードが大きく変わりました。もちろん私がワークショップでできた勢い、モメンタムを止めないよう社内で丁寧に日々のケアをしたこともありますが、そのきっかけは最初のワークショップだったのです。

(インタビュー・記事構成:グローバルインパクト テクニカルパートナー&コンサルタント 海老原 一司)