グローバルイングリッシュ習得48の秘訣第6回 Logicを研ぎ澄ませ!

ニーズが高まる論理力

 いろいろな企業から依頼を受けて実施している研修の中で、ここ数年、参加者が全員日本人であるにもかかわらず、英語でプレゼンテーションをおこなわなければならないセッションが増えています。これまでも、外国人が含まれるワークショップは英語でおこなっていましたが、最近は参加者がすべて日本人であっても、クライアントの要望で「英語でプレゼン」をおこなうケースが増えているのです。
 日本のビジネススクールや大学院の講座でも、すべて英語でおこなうところが増えました。私もそうした講座をいくつか持っていますが、受講者に外国人がいることはあっても、日本人のほうが圧倒的に多い講座が大半です。
 こうした場面で日本人が英語で話すのを観察していると、以前から指摘してきたように、「論理力」の必要性を痛感します。論理力は、「英語のスキルアップ以外で英語を話すときに大事な能力」の1つです。
 日本人の発表を聞いていると、論点が明確でないため、What is your point? (あなたの話のポイントは何?)もしくは、So what? (だから、何が言いたいの?)と聞かれたり、論拠や理由を言わないために、Why? (なぜ?)と突っ込まれたりしがちです。
 これは研修だけではなく、ビジネスの現場でも同じです。ビジネスでは、強い立場にある上役や顧客などから容赦のないSo what?やWhy?といった言葉を浴びることがあります。
 したがって、英語でビジネスをおこなうには、普段から論理力を磨くことが肝要です。実は、英語を使う場合だけではなく、日本語でのビジネスにおいても、論理力の必要性は高まってきています。この10年間を見ても、論理思考、論理力に関連する書籍が急速に増え、企業の社員教育のメニューの中でもクリティカルシンキング、ロジカルシンキングは「定番」となっています。
 なお、ロジカルシンキングという言葉は英語環境ではあまり使われず、critical thinkingと言います。

日本語の「以心伝心」は通用しなくなった?

 では、なぜ論理力の必要性が高まってきたのでしょう。私は、その理由は、日本語の特徴である「高コンテクスト」な言語体系が変化してきたためだと考えています。
 コミュニケーションをとるときに、文字情報(コンテンツ)そのものよりも、雰囲気、背景、関係などの文脈(コンテクスト)に比重を置くコミュニケーションスタイルを高コンテクスト、その反対を低コンテクストと言います。以心伝心、一を聞いて十を知る、というように、日本語は高コンテクストの言語の代表例とされています。
 一方、英語は低コンテクストで、アメリカの親は子どもに Tell it like it is! (ありのままに言いなさい)とよく言います。コンテクストのモデルは、1974年にアメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールにより紹介されました*が、近いコンセプトで、それ以前の1966年に英国の社会言語学者B・バーンスタインはすでに「制限コード」と「精密コード」と呼んでいました。制限コードとは、社会的な関係や共有された前提の下にお互いの理解が成り立っている、という意味です。つまり、高コンテクストのコミュニケーションが成立するのは均質性の高い社会に制限され、前提が共有されていない多様性の高い社会では機能しにくいのです。
 もうお分かりでしょう。高コンテクストの日本語は、均質性が高ければうまく機能するのですが、多様性が高くなると、日本人同士のコミュニケーションでも「暗黙の了解」は通じないのです。マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長は「インターネットはコンテンツが重要」と言いました。言い換えると、「コンテクストはネットでは伝わりにくい」のです。インターネット上では、関係や背景を共有していない不特定多数へ情報を発信しますので、コンテンツが重要にならざるを得ません。コンテンツを明確に伝えるためには、英語でも日本語でも筋道を明確にする論理力は欠かせないのです。ちょうど、ネットが定着してから論理力のニーズが急増していることも、うなずける事象です。


*Edward T.Hall“Intercultural Encounters with Japan: Communication ― Contact and Conflict”(John C.Condon and Mitsuko Saito)1974


論理力は習慣の問題である

 では、論理的とはどういうことでしょうか。簡単に言うと、「話の筋道が明確である」ということです。話の筋道が明確であれば、複数の人にもメッセージを分かりやすく伝えることができます。
 論理というと身構えてしまう人がいますが、次の3つに注意を払えば、誰でも論理力を高めることができます。

1) 論点:何が言いたいのか?
2) 論拠:なぜそう言えるのか?
3) 論脈:どのような論理の流れで?

 先に述べたように、「何が言いたいのか」(論点)がはっきりしないとSo what?またはWhat is your point?という質問を受けることになり、「なぜそう言えるのか」(論拠)を説明しないとWhy?とかWhy do you say that?と問われてしまいます。この論点と論拠を明確にした上で、さらに、「どのような論理構成(流れ)になっているのか」(論脈)を意識してチェックすることが肝要です。
 英語には、雰囲気や背景などのコンテクストに依存しない言語特性がありますので、特に論理を明確にする必要があるのです。反対に、英語で論理的に話す習慣を身に付けておくと、日本語でも筋道の分かりやすい伝え方ができます。
 では、その秘訣について具体的に見てみましょう。

グローバルイングリッシュの秘訣21 プレゼンの型を学べ!

 まず、分かりやすいプレゼンテーションの「型」を紹介しましょう。「PREP方式」と呼ばれるものです。

P:Point 主たる論点、つまり結論を述べる
 先に紹介したようにWhat is your point?以外にも、pointは次のように多く使われます。

I can see your point. (あなたの論点は分かります)
I missed the point. (ポイントを見失いました)
Here is the point. (これが結論です)

 まず、pointを直訳すると「点」のことです。ただし、点は点でも、とがっているのがpointです。pointerと言えば指し棒ですし、レーザーポインターもこの意味からきています。つまり、ここで言うpointとは、メインの論点、結論のことです。
 日本語では「起承転結」と言われるように、話題を起こして、うけて、転じて、結論という順番が好まれますが、英語では、まず自分の主張や結論を先に言うわけです。
 My point is that …. (私の論点は……)とまず述べます。あるいは、I would like to recommend …. (おすすめしたいのは……)と、提案などをしてもよいでしょう。

R:Reason 理由を提示する
 主張や結論を述べたら、次に理由を述べなければなりません。「理由なき主張」では相手に伝わりません。そこで、結論に続いて、The reason why I mentioned this is …. (私がこう考えた理由は……)と理由を提示するわけです。
 理由が2つ、もしくは3つある場合は、I would like to focus on three reasons. First, …. Second, …. Third, ….と言えば、さらに説得力があります。

E:Example 事例を挙げる
 理由のあとに事例が入ると、分かりやすい補足の説明ができます。抽象度の高い話よりも具体的な話のほうがすっと頭に入るからです。
 For instance、あるいはFor example, (例えば)と言って、事例を挙げましょう。

P:Point 最後にもう一度、結論を言って締める
 相手はあなたの話に集中して聞いているとは限りません。また、理由や事例を挙げる際に話が長くなってしまうと、聞き手は「何の話?」と混乱することもあります。その意味でも、最後にだめ押しの結論を述べる必要があるのです。
 Thus、That’s why、Thereforeなどと始めて、論点を強調するのがコツです。説明が長くなった場合は、In short, (つまり、ひと言で言うと)、Let me summarize what I said, (要するに)などと言って結論をまとめても効果があります。

 では、PREP方式でこのページをまとめましょう。
I would like to recommend the “PREP” method to all of you. The reason why I’m saying this is that the “PREP” method is simple and easy to use. For instance, this statement is based on the “PREP” method.
Therefore, let’s practice the “PREP” method.

グローバルイングリッシュの秘訣22  因果関係に強くなろう!

 論理力を鍛えるために、自分の話の因果関係、つまり原因と結果の関係になっているか否かを見極めることは欠かせません。日常の会話では、何となく因果関係という言葉を使っている方もいるかもしれませんが、正確に言うと、次の3つの条件をすべて満たしている場合に初めて「因果関係あり」と言うことができます。

1) 原因は結果の前に起きていなければならない。(時間的な順序)
2) 相関関係がある。
3) 第三因子の排除。(原因と結果以外の要因が影響していないか? それは本当の原因なのだろうか?)

 では、練習をしてみましょう。

 今、雨が降りだした。
 そういえば、蛙(かえる)がゲコゲコ鳴いていた。

 この場合、雨と蛙が鳴いたことには因果関係があるでしょうか。混乱された方は、前述の因果関係が成り立つ3つの条件に照らし合わせてみてください。答えは「因果関係なし」です。
 実はこの問題は、答えの説明がうまくできない人が多いのです。「雨がいつも降るとは限らない」「蛙は雨が降らないときでも鳴く」というと、蓋然性(probability)の話になって、「いつもではないが、蛙が鳴くと雨が降る可能性が高い。したがって、因果関係あり」という反論が出てしまいます。
 ところが、この問題を英語でおこなうワークショップの中で外国人の参加者にしてもらうと、分かりやすい説明がなされます。
 The frogs did not cause the rain. (蛙が雨を降らせたのではない)あるいは、The frogs are not the cause of the rain.(蛙は雨の原因ではない)と発言する参加者は少なくありません。

 つまり、英語ではwhy–becauseの関連がはっきりしやすいのです。英語圏の学校教育では、幼稚園や小学校低学年のときから常に、先生は生徒にYou have to explain why you thought so. (なぜそう考えたのか説明しなさい)あるいは What are the reasons you like this book? (この本が好きな理由は何?)というような質問を絶えずして、理由を考える習慣を身に付けさせます。
 もちろん、日本語でも「原因」「結果」「理由」などを示す言葉や表現を意識的に使えば、因果関係を明確にすることができます。意見を言ったら、先述したPREPのように、常に原因や理由を明確に述べる習慣を身に付ければよいのです。
 英語では、因果関係を明確にする表現がほかにもいろいろあります。

As a result, (結論として)
Due to …, (……によって)
Consequently, (したがって)

 このように、原因や結果を分かりやすくする表現が少なくありません。ぜひ使ってみてください。

グローバルイングリッシュの秘訣43 論拠(evidence)を明確に!

 論理思考を少し心がけるだけで、論理的ではない会話の多さに気付かされます。話が長くて、結局何を言いたいのか分からない……これは論点不明の話し方です。私が最近、特に気になっているのは、「論拠なき主張」です。
 「首相は辞めるべきである。何が何でも辞めさせなければならない」
 「首相は辞めるべきではない。誰が何と言おうと続投すべきだ」
 これらの意見には勢いはありますが、理由は述べられていません。お互いが主張するだけでは、不毛な議論が続くだけです。
 「首相は辞めるべきである。なぜなら、彼にこれ以上続けさせてはならないのだから」というのも、「なぜなら」という言葉が入って、一見理由になっているようですが、前の文を言い換えただけで、理由にはなっていません。

 こうしてみると、皆さんの周りにも「論拠なき主張」を繰り返す人がいるのではないでしょうか。論拠なき主張は、英語の環境では先に紹介したようにすぐに、Why?とかHow can you say that?と聞かれてしまいます。
 例えば、I would like to promote this campaign program because I think it’s good. (このキャンペーン企画はよいと思うので推進したいです)と言えば、すぐに、Why do you think it is good? (どうしてよいと思うの?)と突っ込まれてしまいます。こんなときには、先ほどのPREPで紹介したように、There are three reasons. First, …. Second, …. Third, ….という具合に、よいと思う理由を具体的に3つぐらいは挙げる必要があります。
 その際には、適切な事例や証明できる論拠(evidence)が求められます。そうでないとまた、How can you be so sure? (どうしてそのような確信が持てるの?)とか、Can you really say that? (本当にそう言える?)または、Is it true? (本当?)といった言葉が返ってきます。そして、あまり論拠もないのに言い張ってしまうと、最後にはCan you show me any evidence? (証拠を見せられる?)と言われかねません。
 英語環境では、Make sure your evidence is relevant to what you are trying to prove, not just something that sounds nice. (論拠は聞こえのいいことではなく、あなたが証明しようとすることに当てはまるかをしっかり確認しなさい)ということが大事にされます。
 私がシリコンバレーでコンサルタントとしてプレゼンテーションをおこなったり、ワークショップをリードしたりすることを始めたときには、こうした「論理的な突っ込み」を徹底的に受けました。日本に戻ってきて気が付いたのは、相手がおかしなことを言っているときでさえ、日本人は「論理的なつっこみ」をなかなかしないということです。聞く側が話し手の意図を推し量って、慮(おもんぱか)って聞いているのかもしれませんが、それでは、発信側の論理力が鍛えられるチャンスはありません。
 論理があやふやなときは相手が常に「論理的突っ込み」を入れてくるのだと心に刻んで、論拠を示すことを心がけましょう。

グローバルイングリッシュの秘訣24 メリハリのある論脈を!

 日本語でも英語でも、論理力のある人の話し方には特徴があります。これまで述べたとおり、論点が分かりやすく、しっかりした論拠があることです。そして、3番目の共通項が、論理の流れ、脈絡、つまり論脈が明確であることです。
 では、論脈を明確にするにはどうすればよいでしょうか。
 私は次の2つをおすすめします。


論理の基本「演繹」と「帰納」に習熟しよう

 まず、論理の基本、演繹と帰納に習熟することです。
 演繹とは、アリストテレスの三段論法として知られています。AならばB、BならばC、ゆえにAならばCというアプローチです。上図のように積み木のモデルを提示したのは、大前提の上に載せられる小前提、小前提の上の結論といった構造が分かりやすくなるからです。
 一方、帰納は、事実を並列していきます。積み木でいえば、1つずつ並べていくイメージです。最後に「歴史上、死ななかった人はいない」と言うことができて、初めて結論の妥当性が証明できます。しかし、現実にはそれ(結論の妥当性)がなかなか見つからないために苦労するわけです。よって、帰納法はあくまでも推論であって、断定はできないことを覚えておきましょう。


論理接続詞を使おう

 論脈を明確にするために次におすすめしたいのが、論理接続詞を使用することです。文と文のつながり、あるいはパラグラフとパラグラフのつながりに注意して、順接(and)か逆接(but)か、ということはもちろん、下記のようなめりはりの利いた論理接続詞(句)を使うことが大切です。

付加In addition, / Furthermore,
反例On the other hand, / In contrast,
結論を導く
Thus, / Therefore, / As a result, /
Based on, …,
要約をするTo summarize, / In short,
最後にIn closing, / Finally,

 最後に、論理力は英語でも日本語でも習慣の問題であることをもう1度強調しておきたいと思います。日本語でも論理的に話す練習をしておけば、英語環境で困ることはありません。ぜひ、普段から意識して論理力を磨きましょう!

(文責:グローバルインパクト代表取締役・マネージングパートナー 船川淳志)