「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第1章 ロジカルとは何か(設問1-7)
論理思考、ロジカル・シンキングが普及してきたと述べましたが、“ロジカルとは何か?”、“論理とは何か?”の理解はなかなか進んでいないようです。
「業界の論理はそんなもんじゃない!」
「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」
というように、安易に使われることもあります。
あるいは、論理と屁理屈の区別がつかない人もかなりいるようです。そこで、この章では、論理とは何か、ロジックとどう違うのかを考えてみましょう。
ロジカル会話問題集 設問4「もっともらしい常套句には注意してかかれ!」
田中「最近、年金履歴の登録漏れが話題になっている。こうした問題が発生しないように、今後社会保険庁の体制の抜本的な見直しが急務である」
斉藤「ちょっと待ってください……」
田中氏の主張に対する斉藤氏の反論として、もっとも効果的なものは?
A:年金登録漏れの問題は、社会保険庁の体制に原因があるのかわかりません
B:社会保険庁だって、これまで一生懸命行うべき業務を行ってきているのですよ
C:この問題は社会保険庁だけでなく、日本という国のあり方が問われているように感じます
D:年金登録漏れの問題は以前から指摘されてきていることです
E:年金登録漏れなど、防衛省の情報漏えい問題と比べれば大きな問題とは言えないのですよ
F:年金登録漏ればかりクローズアップされますが、年金を未納している人がどれだけいるか知っていますか?
ロジカル会話問題集 設問4解説
常套句にのせられるな!
一時期、政治家が「自己責任」という言葉を口にしていました。政府が危険地域と認定した地域で拉致された方が解放された後、盛んに使われるようになりました。すると、次にマスコミがこの言葉に敏感に反応しました。政治家から自己責任という言葉が出た瞬間に、発言内容は二の次にして、その政治家に非難の声を浴びせたものです。
会話をしている時、「自己責任」のようなもっともらしい言葉を耳にすると、そこで考えるのを止めてしまうことはありませんか? 逆にその言葉に過剰に反応して口論になってしまうことはありませんか? かみ合った会話にするためには、こうしたもっともらしい言葉が出てきた時に、考えることを止めないことが重要です。
こうした「言葉への依存」とも言うべき傾向は、どのような場面でもよく見られることです。ビジネスの世界では、バズワード(はやりの言葉)を振りかざして、さも何かすごいことを言ったような気になることがあります。日常の会話でも、同様の常套句を振り回して相手を煙に巻いたり、無用な口論を引き起こすことがあります。この問題で出てきた「抜本的な見直し」という常套句はその代表例でしょう。
「抜本的な見直し」という言葉は、言っている側からすれば気分のよいものです。悪いものを何か一刀両断にし、自分が何か新しいものを作り上げるという感覚を起こさせる。反面、聞いている側(特に納得できずに話を聞いていると)にとってすれば、これほど気に障る言葉はありません。こうした言葉に変に納得してしまうのも困りものですが、逆に反論するとなると、ムキになった反応をしてしまうことがあります。では、ムキになるとどんな反応をしてしまうのでしょうか。
例えば、抜本的な見直しを迫られている当事者の場合、えてして、責任論と早とちりしてしまって、責任逃れをしようとする反論をしてしまいます。この問題で言えば、E〈年金登録漏れなど、防衛省の情報漏えい問題と比べれば大きな問題とは言えないのですよ〉やB〈社会保険庁だってこれまで一生懸命行うべき業務を行ってきているのですよ〉などがそれにあたります。抜本的な見直しが必要か、ということを考えることもせず、反論というよりは自己弁護になってますね。
責任逃れの別のパターンとしてもう一つあるのが、「相手だってできていないのだから……」というもの。ここでは、F〈年金登録漏ればかりクローズアップされますが年金を未納している人がどれだけいるか知っていますか〉ですね。このような反論によって、悪いのは自分ばかりではないことを示しながら、社会保険庁の問題を小さく見せようとする意図が見え隠れしています。しかし、そんなことをしても意味がないのは明らかですね。
ムキになったとしても、まだ余裕があると、相手の主張そのものを矮小化しようとするパターンもあります。例えば、主張そのものが他の問題と比べればたいしたことのないものである、と言うようなC〈この問題は社会保険庁だけでなく、日本という国のあり方が問われているように感じます〉などはその典型です。また、D〈年金登録漏れの問題は以前から指摘されてきていることです〉のように、すでにわかっていることを鬼の首をとったように自慢げに話すな、というニュアンスがありありの反論をする場合もあります。
相手の意見を冷静に捉え妥当性を批判的に見る
では、結局どうすればよいのでしょうか。ここでも、その人が言っていることを冷静に捉え、その内容が妥当かを批判的に見ることが第一歩です。設問4では、結論として「社会保険庁の体制の見直し」があがっています。しかし、その論拠は、十分示されていませんね。単に年金履歴の登録漏れが話題になっていることをあげている程度です。この内容が、社会保険庁の体制見直しの論拠とまではいかないでしょう。つまり、対策が妥当かどうかを判断するための論拠として、その原因を示すよう促せばよいのです。となると、ここでの反論としてもっとも有効になるのが、A〈年金登録漏れの問題は、社会保険庁の体制に原因があるのかわかりません〉となります。
私たちは往々にして、発言の中身より、発言で使われる常套句に納得してしまったり、逆に敏感に反応してしまうものです。こうした常套句に対して、「売り言葉に買い言葉」にならないよう、まずは発言の中身をしっかりとチェックすることを心がけたいものです。
ロジカル会話問題集設問4 回答
正解はA
年金登録漏れの原因が社会保険庁の体制だけにあるとする相手の論拠の弱さを突く
(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)