グローバルイングリッシュ48の秘訣 第4回

自分の殻を打ち破れ!オープンマインドの本質

外資系企業で求められる人材の必須要件

 1992年の初め、私はアメリカのシリコンバレーにあるコンサルティング会社に入りました。そこで体験したプロジェクトの1つにassessment center(アセスメントセンター)があります。アセスメントセンターとは、さまざまな課題を通して個人の資質や能力を多角的に審査する手法で、クライアント企業からの依頼を受け、日本支社の責任者や上級管理職ポジションの候補者数名の中から適任者を客観的に評価するのです。ヘッドハンターやエグゼクティブ・サーチと呼ばれる人材紹介会社からすでに推薦されている日本人候補者に1人ずつシリコンバレーのオフィスに来てもらい、丸2日間、いろいろな課題に取り組んでもらいながら、私たちコンサルタントが5、6名のチームを作ってさまざまな角度から適性を観察するものです。
 候補者に出す課題は、ポジションに応じて異なりますが、事業プランや部下のマネジメントから始まって、就任時および就任1年後のあいさつ、部門会議のシミュレーションなど、なるべく現実的な状況を設定します。その中で候補者が思考力、対人力、そしてリーダーシップをどのように発揮するのかを見るわけです。

 私たちは事前にクライアント企業にインタビューをおこない、そのポジションで求められる要件、その企業が求める人材像について理解したうえで審査をおこなったのですが、業種業態によって多少の違いはあるものの、クライアント企業が語った理想の人材像は、驚くほど似ていました。
 代表的なコメントを紹介しましょう。

We are looking for a person who has an open mind, who is willing to learn new things and who can collaborate with diverse individuals.
われわれが探しているのは、自ら進んで新たなことを学び、多様なメンバーと協力できるオープンマインドな人です。

Our “dream” candidate would be a person who can take the initiative and be capable in various situations. Since our business is fast–paced, he or she must be open–minded and feel comfortable in such an environment.
われわれの「理想の」候補者はイニシアチブを発揮できて、さまざまな状況下で力を発揮できる人です。われわれのビジネスは速いペースなので、オープンマインドでそのような環境を苦にしない人が求められます。

We need someone who is self–driven rather than someone who waits for orders. He or she can get things done on his or her own. At the same time, he or she should have an open mind and be receptive to ideas. In other words, he or she must be a good team player as well.
われわれが必要としているのは、指示を待つ人ではなく、自発的な人です。自分でどんどん物事を進められる人です。同時に、オープンマインドで、いろいろな考えを受け入れられる人でなければなりません。言い換えると、チームプレーヤーであることも必要なのです。

 お気付きのように、キーワードは「オープンマインド」です。この要件は今でも変わりません。そしてオープンマインドは、外資系企業に限らずグローバルビジネスに携わるすべての人に求められているのです。

なぜ「オープンマインド」が必要なのか?

 では、なぜオープンマインドであることが求められるのでしょうか? カタカナで使われるようにポピュラーな表現ですが、ビジネスの世界でオープンマインドの持つ意味合いを考えると、次の3つのことが言えます。

◦People who are open–minded challenge the status quo.
 the status quoは「現状」という意味でよく使われます。オープンマインドな人は現状に満足することなく、いろいろな観点から現状を考察し、挑戦します。「問題意識を持つ」という意味にも相当します。

◦People who are open–minded accept different value systems.
 value systemsは「価値観」。異なる価値観を受け入れるという意味です。グローバルビジネスでは、国籍、人種、宗教などさまざまな背景を持った人たちと仕事をしなければなりません。こうした多様性の高い環境では、自分の価値観だけに閉じこもるのではなく、オープンマインドで臨むことが必要なのです。

◦People who are open–minded are good learners.
 新たなことに挑戦したり、異なる価値観を受け入れたりすることは、われわれの意識の枠(frame of reference[mindset]という表現がよく使われます)を広げることを意味します。環境の変化が激しい中でビジネスをおこなうためには、常にいろいろなことを学び続けなければなりませんが、その基本がオープンマインドなのです。

 こうして見ると、オープンマインドであることは、挑戦を重ね、多様な価値観を受け入れ、自己成長を続けていくために必要な基盤であることが確認できます。パソコンで例えるならば、「オープンマインド」というOS(オペレーティングシステム)がしっかりしていれば、問題解決力、異文化理解力、チームワークというアプリケーション力も身につけやすいのです。
 では、このOSをインストールし、しかも強化、更新するためには、どのようにすればいいのでしょうか。

グローバルイングリッシュの秘訣13
Don’t be afraid of uncertainty
不確実性に立ち向かえ

 先に紹介したアセスメントセンターのプロジェクトを体験して、いくつかの日本人の課題が浮かび上がってきました。
 まず、候補者=転職希望者がアセスメントを受けることを伝えられたときの反応です。彼らがこれから入ろうとする企業からの要求なのですから、通常は協力的な反応がほとんどなのですが、時折、強い警戒心を示す人がいました。また、アセスメントを受ける段階になってから、候補者の間で顕著に見られたのが、「不確実性に対する耐性」の違いです。課題の説明を聞いて、すぐに取りかかれる候補者もいれば、そうでない人もいます。後者は、課題の詳細についてさらに聞かないと取り組めないと言います。つまり、ステップを1つずつ示さないと先に進めないという人です。決まったやり方を繰り返すのは得意でも、自分でやり方自体を考え、物事を進めながら柔軟に対応するのが苦手という人たちです。これは、日本人の国民性の問題というよりも教育制度に原因があると考えられます。実際、ビジネススクールなどでこの種の訓練を受けた経験のある人は、高い「不確実性に対する耐性」を示しました。
 この傾向は、アセスメントを受けた候補者の話だけではなく、多くの日本人に見られるものです。では、どうすれば不確実性に対する耐性を高めることができるでしょうか。
 その第一歩を示す英語の表現が、Let’s play it by ear.です。譜面を見ないで聴きながら演奏しよう、という意味から派生したもので、「臨機応変に対応しよう」という意味です。即興性を大事にする英語のビジネス環境を垣間見ることができる表現です。似たような意味合いのGo with the flow. (状況を見ながら柔軟にやっていこう)という表現もよく使われます。
 また、Tolerate ambiguity! (はっきりしないこと、あいまいなことを許容せよ!)も、グローバルに活躍する条件としてよく挙げられます。自分の経験則が当てはまらないような状況でも、思考をフリーズしない、あるいは、想定外のことにも対応せよ! という意味合いが込められています。ふだんから思考力を鍛えると同時に想像力や構想力を磨くことも重要なのです。その訓練の具体的な手法の1つがscenario planning(シナリオプランニング)です。ビジネスに大きな影響を与える環境変化をシナリオとして描き出すものです。
 例えば、次のようないくつかの質問を用意します。

What are the key uncertainties in our business?
われわれのビジネスで鍵となる不確実性は何ですか?

How will our business be impacted by $1=¥50 (or $1=¥200)?
もし、1ドルが50円(あるいは200円)になったら、われわれのビジネスにどのような影響がありますか?

To what extent have we prepared for a system blackout?
システムブラックアウト(システムの一時的機能停止)について、どこまで準備しているでしょうか?

 こうした質問を考えながら、いろいろな角度から起こりうる事態に備えるわけです。不確実性に対しても、オープンマインドで臨むことの重要性が、今、問われているのは言うまでもありません。

グローバルイングリッシュの秘訣14
Leveraging diversity多様性を生かせ

 diversity(ダイバーシティ)という言葉が、この10年の間に日本の企業社会にも浸透してきました。多様性と訳されますが、ここでいう多様性とはemployee(社員)、customer(顧客)、shareholder(株主)などのstakeholder(ステークホルダー。企業の利害関係者)の多様性を示します。
 具体的にはgender(性別)、nationality(国籍)、race(人種)、religion(宗教)、age(年齢)などの違いが挙げられます。
 これまで、日本の企業社会は高い均質性が保たれていました。4月1日に新入社員が一斉に働きだす習慣は世界の中でもまれです。けれども、このような均質性を維持してきた枠組みが、今、日本国内でも崩れてきています。そうした中では、上記に加えてvalues(価値観)、beliefs(信条)、motives(動機)などの目につきにくい多様性も考慮することが重要です。
 グローバル企業では、こうしたdiversityについて長い期間取り組んできています。多様性を生かすことによって、組織の活力や新たなinnovation(イノベーション。変革・革新)を生み出せるからです。
 そのことを示すように、次のような言葉が組織の中でよく知られています。

cross–cultural understanding and sensitivity
異文化への理解と感受性

managing a diversified workforce
職場の多様性のマネジメント

leveraging cultural diversity
文化の多様性をてこに組織の活性化を図る

 これらに関連した教育プログラムもここ20年以上にわたってかなり普及してきました。そのせいか、グローバルな会議や多国籍メンバーによるプロジェクトを開始する際には、次のようなあいさつがよく聞かれます。

I am grateful for this diversity because our various backgrounds, expertise, and ways of thinking help us create innovation.
われわれの多様性はすばらしいと思います。というのは、われわれのさまざまなバックグラウンド、専門性、そして考え方がイノベーションを生み出す助けになるでしょう。

I believe that diversity strengthens us as a team. We will all benefit from our different experiences and perspectives.
多様性がチームに力を与えると信じています。異なる経験や見方からお互いに得るものがあるでしょう。

 このような多様性を積極的に生かす姿勢を示す表現を覚えておくといいでしょう。もちろん、違いだけではなく、共通点もあるわけですから、それらを確認することも重要です。その意味では、次のような言い方が多様性の高いチームのガイドラインになります。

Let’s accept our differences and clarify similarities!
違いを受け入れよう。そして類似点も明らかにしよう!

グローバルイングリッシュの秘訣15
Managing conflict対立を恐れるな

 多様性(diversity)は、新たな考え方や気付きを生み出しますが、違う見方や考え方は、意見の対立(conflict)を生じさせることもあります。グローバルビジネスでは、conflict management、そしてconflict resolutionが重要なテーマとして扱われています。
 conflictに対する基本的な考え方は、右ページに掲載した図のモデルが参考になるでしょう。
 お互いがそれぞれに主張(assertion)するだけでは、競争(competition)し合っている状況ですし、だからと言って、お互いの主張を引っ込めてしまえば、回避(avoidance)になってしまいます。そこで、自己主張だけではなく、相手への協調(cooperation)が重要になります。ただ、自分の主張をせずに、相手に合わせるだけでは、単に順応(accommodation)となり、中途半端な状況では、妥協(compromise)で終わってしまいます。
 求められるのはコラボレーション(collaboration)のステージです。「コラボ」というカタカナでも目にするようになってきたコラボレーションの鍵となるのは、自己主張と相手との協調のバランスです。
 一般的な傾向としては、日本人はどうも対立回避のモードが強いようです。一方で、英語の環境では自己主張が強くていいと思い込んでしまう人が、必要以上にcompetingのモードになってしまうのも事実です。相手との関係においては、適正なバランスを探ることが求められます。具体的には、次のような表現を覚えておくと役立つでしょう。

These ideas seem to conflict with each other, but
I think we can find a way to work together.
これらのアイデアは対立するように見えるかもしれませんが、一緒にやっていくやり方があると思います。

Let’s find a way to balance our options or seek a new direction to integrate them.
われわれのバランスをどう取るか、あるいはそれらを統合する新たな方向性を模索しましょう。

 いずれにしても、意見の違いは違いとして、それを乗り越えて協業できることを明示することが重要です。

We may have different opinions, but we can work it out!
意見が違っていたとしても、われわれはそれを解決することができます!

Conflict Management
対立のマネージメント

参考:Thomas & Kilmann

グローバルイングリッシュの秘訣16
Receiving/giving feedbackフィードバックを受け入れよ/与えよ

 オープンマインドが、変化の激しい環境の中で、多様なバックグラウンドを持つ人たちと協業していくためのOSであることが確認できたと思います。最後に、オープンマインドであることの実践として欠かせない「フィードバックを受け入れることと与えること」について紹介しましょう。
 feedbackはもともとはシステム用語ですが、現在では広く使われています。receiving/giving feedbackとは、対人能力の1つとして、自分(もしくは相手)の行動の結果や影響について、プラス面(よい点)であろうが、マイナス面(改善点)であろうが教えてもらう(もしくは伝える)ことを言います。performance review(人事考課)の面談のようなフォーマルな場面だけではなく、ふだんの仕事の中で、同僚同士あるいはプロジェクトチームのメンバー同士が、お互いに率直にfeedbackを与えたり、受けたりすることは、効果的な組織の運営に欠かせません。
 May I ask for your feedback on my work? (私の仕事についてフィードバックをもらえますか?)とか、I would like to have your feedback. (フィードバックをもらいたいのですが)と相手に求めることで、あなたのオープンマインドを示すことができます。また、計画を立てるときには、例えば次のように相手からのフィードバックを積極的にもらうと、共同作業を円滑に進めることにもつながります。Please tell me what you like about this plan. What would make you like it better? (このプランについて、もし気に入ったところがあれば、教えてください。さらによくするとすれば何ですか?) What do you think of this? Do you see any better ways of doing this? (これについてどう思いますか? よりよい方法はありますか?)

 相手にフィードバックを与えるときは、4つのポイントに気をつけてください。それぞれに例文を挙げておきます。

フィードバックのポイント1 タイミングを考える

相手に心の準備をしてもらいましょう。改善点などを伝える場合は特に重要です。Do you have a minute? May I give you some feedback? (時間がありますか? フィードバックを与えてもいいですか?)などと言って許可を求めます。

フィードバックのポイント2 事実を述べ、まず相手の考えを聞く

 Do you remember you mentioned a customer’s complaints at the last meeting? What did you think about the reaction of other participants at that time? (この前の会議であなたが顧客の不満について述べたことを覚えていますか? そのときのほかのメンバーの反応をどう思いますか?)

フィードバックのポイント3 改善行動としてどうすればいいかを伝える

 We should be more careful in dealing with confidential issues. (機密事項の扱いにはお互いにもっと気を付けなければなりません)この場合、You should beよりもWe should beと言ったほうが柔らかく聞こえ、相手にもこちらのアドバイスが受け入れてもらいやすくなります。

フィードバックのポイント4 最後に自分はどうすればいいかを尋ねる

Let me know if I can help you. (お手伝いできることがあれば教えてください)

 常にオープンマインドであることを忘れずに、フィードバックを通して信頼関係を構築していってください。

(文責:グローバルインパクト代表取締役・マネージングパートナー 船川淳志)