「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第3章 ロジックの基本、演繹と帰納(設問15-21)
論理アタマをつくるには、最低必要な原理原則を理解しなければなりません。
そうでないと、第1章でも紹介したように「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」という詭弁の罠にはまってしまったり、勝手な屁理屈と区別することもできません。
その意味で、演繹と帰納は論理アタマをつくる必須の原理原則の一つです。この二つは中学や高校でも学んでいるのですが、より実践的な学び方をこの章で紹介しましょう。
ロジカル会話問題集 設問15「味の乱れはやがては宇宙の乱れ!?」
味の乱れは家庭の乱れ
家庭の乱れは国家の乱れ
国家の乱れは宇宙の乱れ
上記の前提がどれも正しいとすると
「味の乱れは宇宙の乱れ」というのは?
A:正しい
B:正しくない
C:どちらともいえない
ロジカル会話問題集 設問15解説
演繹法のチェックは積木モデルで
この設問15、出所はある有名ラーメン店の壁に貼ってあったものです。オリジナルはもっと長く、味の乱れから始まって、心の乱れ、家庭の乱れ、社会の乱れ、国家の乱れ、そして宇宙の乱れというような順番でした。ラーメンが出てくる間に、「論理アタマを鍛えるエッセンスがここにもある!」と感心したのでした。
論理学の本に必ず登場するのは演繹と帰納の話です。この問題は演繹法の問題です。「味の乱れは宇宙の乱れか?」、答えが気になるでしょうが、その前に演繹法をおさえておきましょう。
演繹法とは、大前提に基づいて次の前提を述べ、前提に基づいて結論を持ってくるものです。演繹法の代表的な三段論法として次の例がよく知られています。
人は死すべきものである
ソクラテスは人間である
従って、ソクラテスは死ぬ
結論は自明の理と見えるかも知れませんが、もう少し練習してみましょう。次の結論は正しいのでしょうか?
オバマ氏はバスケットボールがうまい
バスケットボールの名選手、バークレーはカジノで大損した
従って、オバマ氏もカジノで大損するであろう
全てのカニにはかん脚(ハサミ)がある
ザリガニにはかん脚(ハサミ)がある
従って、ザリガニはその名前が示すとおりカニの一種である
オバマ氏とバークレー選手の問題は結論に無理があるのは明らか。バスケットボールプレーヤーが全て大損するわけでもなく、しかも、「バスケットボールがうまい」と「名選手」では意味が異なるのです。
「カニ」の問題を見てみましょう。「全て」という表現だけにとらわれてしまうと混乱する人が時々います。この問題、一見、先の「ソクラテスは死ぬ」と同様な三段論法のようにも見えます。しかし、「カニ」と「ソクラテス」の論法を記号に置き換えて比べて見ると違いがあきらかでしょう。
<ソクラテスの論法> | <カニの論法> |
BならばCである | AならばCである |
AはBである | BもCである |
よって、AはCである | よって、BはAである |
これらは、記号論理学や形式論理の基本です。「記号はイヤ」という方は、次のように置き換えたほうが、<カニのすりかえ>がなぜ起きたのかがわかりやすいでしょう。
全ての日本人は人間である
イギリス人も人間である
よって、イギリス人も日本人である!
つまり、演繹法ではそれぞれの前提の妥当性(正しさ)と前提の積み重ね方がチェックポイントなのです。
この10年間、いろいろな企業で新入社員から幹部候補社員までさまざまなビジネスパーソンにロジカルシンキングや思考力強化研修を行ってきていくつかの発見があります。
それは理系の修士や博士号を持つ、世間的には論理アタマができているはずの人でも今回のような基本的な問題で間違えることがあるのです。つまり、論理学を勉強して「命題論理学」という言葉の記憶があっても、ロジカルにアタマが動くとは限らないということです。論理的に頭を動かせる方の特徴としては、三段論法などの基本をしっかり理解していることと、普段から応用していることがあげられます。
教える立場から言えば、もっとわかりやすく、基本を理解してもらえるにはどうしたらよいだろうかと考えてきました。論理学の本を開けると、三段論法には第一格から第四格まであり、全部で256通りの三段論法があり……というような勉強好きな人ならともかく、とっつきにくい説明がいきなり目に飛び込んできたりします。
そこで、数年前に積木で考えればわかりやすい、と積木モデルを考えました。(i)先の「ソクラテスも死ぬ」という三段論法は図–3のように示すことができます。積木で示した理由は、大前提、小前提、結論という3つの積木の積み方とその妥当性が容易にチェックできるからです。そのチェックとは積木を上から見たら集合の輪で確認することができるからです。
「人は死すべきものである」という大前提を集合の輪で「人」と「死すべきもの」の関係を見ると、当然、「人」が「死すべきもの」に包含されています。ところが、「ソクラテスは人間である」のかわりに「ソクラテスはロボットである」という小前提があれば、これは「死すべきもの」という集合の輪からはみ出してしまいます。
また、最後に「ソクラテスは論理アタマがある」という結論を持ってきたら、それまでに述べていないことを結論づけていることになって三段論法の原則を逸脱してしまいます。このように、積木モデルによって、積み方と妥当性がチェックできるのです。
ここまでくれば、冒頭の問題、「味の乱れは宇宙の乱れ」の検証はラクでしょう。この問題の正答率は89.6%、10人に9人は正解を出しています。はずしてしまう人の特徴として3つあげられます。
第一に、いきなり「果たして、味の乱れは宇宙の乱れなのだろうか?」と考えてしまう方です。論理アタマをつくるには、勝手な思い込みではなく、原理原則にのっとって考える習慣が必要なのです。
第二に、「上記の前提がどれも正しい」という箇所を読み飛ばしたり、その意味をしっかり理解できていない場合です。「味の乱れは家庭の乱れ」が正しいということは、「ソクラテス」で見たように「味の乱れ」は「家庭の乱れ」に包含されているのです。それを繰り返してしていくと、次ページの図–4のように、「宇宙の乱れ」から「味の乱れ」に至るまでの前提がはみ出していない状況なのです。一見、「ソクラテス」の図と積み方が逆になっているように見えますが、論理構造は同じです。従って、「味の乱れは宇宙の乱れ」は「正しい」となります。(正解はA) 第三に「三段論法」の「うろ覚え」の方が見受けられます。「三段ではなく、四段でも言えるのか?」とか、「大前提、小前提の順番が違う」と混乱する場合です。この問題は三段論法の基本活用であり、演繹の基本です。論理の基本をぜひ、身につけておきましょう。
ロジカル会話問題集 設問15 回答
正解はA
論理の基本は演繹法。前提の正しさと積み重ね方を調べれば、実は簡単!
(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)