「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第2章 因果関係に強くなる(設問8-14)

大声で泣けばお母さんがすぐ来る。

ベッドから落ちると痛い。

幼児がいろいろなことを早く学ぶのは、このように、原因と結果が近くてわかりやすい環境、つまり因果関係が単純な状況に居るからです。ところが、大人になると、因果関係は複雑になってきます。結果がわかるまでの時間は長く、どれが本当の原因なのかわかりにくいことのほうが多いのです。

それでも、何が本当の原因かを考える姿勢は思考力を伸ばす上では欠かせません。

この章では、ロジカルシンキングの基本、因果関係を見きわめるコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問11「組織活性化? コミュニケーション?」

最近の調査で、組織が活性化していないという結果が出た。そう言えば、ここのところずっと面と向かってのコミュニケーションが減ってきているし、情報伝達がなされていないという声もよく聞く。ということは、コミュニケーションを改善すれば組織は活性化するようだ。つまり、コミュニケーションが悪い原因は、組織が活性化されていないことにある。

 上記の主張に対する指摘として、

もっとも適切なものは?

A:データによれば、コミュニケーションと組織活性化には相関関係が見られません

B:あなたの話ではコミュニケーションと組織活性化のどちらが原因かが混乱しています

C:両者の共通の原因として、企業文化の問題を見逃すことはできないでしょう

D:あなたのような話をする人がいるから、コミュニケーションが悪くなるんだ

E:このような調査でコミュニケーションを判断しようとすること自体が間違っています

ロジカル会話問題集 設問11 解説

因果関係の実現を妨げる言葉

 セミナーで設問11と同じような課題を出すと、たいていの人はこの主張がおかしいことは理解します。ただ、何がおかしいのかの指摘をしてもらうのは難しいようで、なかなか的を射た回答が返ってきません。「両者に因果関係はない」と言い切ってしまう人、「これだけではどちらが原因かわからないね」と判断を保留してしまう人、「やっぱりこれまでの経験からコミュニケーションが問題だと思うので、この人の言うことは間違っている」と自分の経験も持ち出す人、さらには選択肢で出したようなことを言う人も出てきます。どの指摘も一見もっともなように聞こえますが、本当にそうなのか、という点では疑問が残るものばかりです。

 では、なぜこのような指摘をしてしまうのでしょうか? このことについて答えを言う前に、別の例で考えてみましょう。

 例えば、交通事故の原因は何かをつかむ場合、「交通事故が起きた? ああ、それは不注意が原因だね」などと簡単に片づけたりしません。いろいろ調べた上で原因を特定していきます。それは事故が発生した時の状況が事故ごとに異なるからです。その時の原因は、具体的なものになるはずです。誰と誰の事故なのか、というところから始まって、当時の天候や路面状況や交通事情、当事者の状況や運転の仕方まで調べないと、原因はわからないはずです。

 この例を見ればわかるように、具体的な場面や状況をもとに因果関係をつなぐことをしないと、因果関係をつかむことはできないのです。これは、よく考えてみれば当然のことでしょう。因果関係とは、どんな状況でも生まれるものではなく、ある特定の状況や場面で生まれるものだからです。

 こうした考え方の対極にあるのが、何とでもとれるような意味の言葉を振り回すやり方です。第1章でも出てきましたが、言葉への依存は因果関係でも見られます。ある意味何とでもとれるような言葉を乱用すると、何でも因果関係がつながっているように感じます。

 問題に戻りましょう。ここでまさに何とでもとれる言葉が出ています。「コミュニケーション」であり、「組織活性化」ですね。このぐらい抽象的な言葉だと、どちらが原因とも結果ともとることができます。ただ、両者が結びつくにはいろいろなパターンがあるので、それを具体的にしていかなければ、本当に因果関係があるのかどうかは判断できません。

 ここは、先ほどの交通事故の例同様、二つの言葉で説明しようとしている場面や状況を具体的にしなければなりません。例えば、「コミュニケーション」で言うなら、誰と誰とのコミュニケーションなのか、コミュニケーションの量なのか質なのか、コミュニケーションの量だとしたら、コミュニケーションの頻度なのか、1回当たりのコミュニケーションの量なのか、といった点まで具体化しないと、因果関係のチェックなどは無理な話です。これは「組織活性化」も同様です。

 このような具体化ができていないために、おかしなことに話をしている本人が混乱してしまっているのが、設問11の状況です。最後から2番目の文で「コミュニケーションを改善すれば」と、コミュニケーションに原因があると言っておきながら、最後の文では「コミュニケーションが悪い原因は組織が活性化されていないことにある」と逆の話をしています。こんな人には、〈コミュニケーションと組織活性化のどちらが原因かが混乱しています〉というように、相手が混乱している状況を指摘してあげるのがもっともよいでしょう。

 しかし、因果関係を少し学んだ人の中には、その成果を発揮しようと、状況も理解せずにトンチンカンな指摘をしてしまうケースもあります。代表的なのはの〈相関関係がみられない〉という指摘です。因果関係も整理されていない状態で、相関関係の有無を指摘しても意味がありません。「因果関係がおかしい」と思った瞬間に「相関関係」「第三変数」という言葉で指摘をするのも一種の言葉への依存です。

 また、話が混乱すると、内容を十分に理解しないで自分の言いたいことを持ち出すケースもよく見られます。〈両者の共通の原因として、企業文化の問題を見逃すことはできないでしょう〉などはその典型です。このように、相手の話を十分に理解せずに、自分の思っていることを言っているだけのケースが実は多いのです。  因果関係を正確につかみたいのなら、言葉に依存してはいけません。実際の状況や場面に依存する、つまり具体的な事実を積み重ねていくことが一番の近道であることを忘れないでください。

因果関係の法則2 相関関係は?

前の設問9で、因果関係には時間的順序があること、つまり原因が先で結果は後となることを見てきました。ただし、時間的順序があれば必ず因果関係があるかと言えば、そうではありません。

 例えば、ある資格試験に合格した前日にトンカツを食べたとしたら、試験合格の原因がトンカツと考え、今後何か試験があるたびに、かならず前日トンカツを食べるというようなことは、時間的な前後関係でしか因果関係を見ていない典型です。冷静に考えれば、それが試験合格の原因になるとは考えにくい。

 そうは言っても「もしや」、ということがあるかもしれません。そのような場合は、相関関係を調べればよいのです。つまり、他の試験の時にも前日にトンカツを食べたかどうかを調べ、合否に明確な傾向が見られるかどうかをチェックすればよいのです。例えば、のように「トンカツを食べて合格した」場合と、「トンカツを食べずに不合格」の場合が極端に多い場合には、両者に相関関係があります。逆の傾向や明確な傾向がない場合は、相関関係がないことがわかります。

 相関関係がなければ因果関係はありません。原因と思われたものが発生しても結果が出てくるかどうかわからないのなら、原因とは言えません。(ただし、相関関係があるからといって、即因果関係がある、ということにはなりません。くわしくは設問13に述べます)

 ここまでくれば、設問10も指摘すべきことは見えてきますね。ルーキーシリーズの人気と興行成績に相関関係はあるかもしれませんが、両者の相関関係を示すものがありません。1回の興行成績と最近の人気だけで相関関係があるとするのは、相当強引です。

 さらに山田氏の発言を見れば、興行成績により強い関係も持つものとして、国内全体での興行収入があげられています。その点を指摘し、どちらが原因として適切なのかを会話を進めていく、つまり、〈「ルーキー5」の興行収入低迷の原因は、ルーキーシリーズの人気低下ではないでしょう〉のような考え方のほうが妥当だと言えます。

 因果関係という観点から見るとこの問題の解説は終わりなのですが、この問題を単に因果関係の話だけで終わりにしてしまうのは、実は非常にもったいない。というのは、山田氏の「従って」という言葉からどのようにつなげていくかが、この問題でもっとも難しいところだからです。田中氏の発言がなく、山田氏の「過去のルーキーシリーズが上映された頃と比べて、日本では映画全体の興行収入が落ちてきています」という発言だけを見ると、「従って」という言葉で山田氏の発言をつなげるだけなら、〈今後、映画産業はジリ貧になるでしょう〉、〈映画産業はインターネットなどのエンターテインメントに侵食されてきているのです〉、〈米国ではルーキーシリーズの人気は根強いので、人気が落ちたと判断するのは性急ですよ〉あたりはあまり違和感なくつなげることができるのです。

 つまり、会話の場合は、ある発言に対していろいろなパターンで会話を進めることができます。しかし、それではしだいに関係のない話になっていってしまいます。

 このように、一つ一つの発言に多少関連しているだけの別の話を持ち出して会話をつなげるのではなく、会話全体としての流れに沿って展開することを心がけなければ、会話自体がかみ合わなくなってしまいます。

 また、〈映画産業もシリーズものに安易に依存する考え方を改めたほうがいいですね〉のように、ある人の話した内容を呼び水に、何か教訓じみたことを言って満足してしまうケースも多く見られます。因果関係もろくに検証せずに結論を言うのは、飲み屋での放談レベルならば許されるかもしれません。しかし、もう少し真剣に会話をしている場面では誤った判断を招くことになります。  因果関係をつかむには、単に時間的関係をつかむだけではなく、原因と結果の間に相関関係はないかを見ることが必要になります。表面的な関係にとらわれずに原因との関係を掘り下げていきましょう。

ロジカル会話問題集 設問11 回答

正解はB

「コミュニケーション」「組織活性化」……

あいまいな言葉で説明しているうちは、因果関係が混乱してしまう

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)