「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第2章 因果関係に強くなる(設問8-14)
大声で泣けばお母さんがすぐ来る。
ベッドから落ちると痛い。
幼児がいろいろなことを早く学ぶのは、このように、原因と結果が近くてわかりやすい環境、つまり因果関係が単純な状況に居るからです。ところが、大人になると、因果関係は複雑になってきます。結果がわかるまでの時間は長く、どれが本当の原因なのかわかりにくいことのほうが多いのです。
それでも、何が本当の原因かを考える姿勢は思考力を伸ばす上では欠かせません。
この章では、ロジカルシンキングの基本、因果関係を見きわめるコツを紹介します。
ロジカル会話問題集「地球温暖化の原因は本当にCO2?」
設問13:地球温暖化の原因は本当にCO2?(1)
山田「地球温暖化とか言って騒いでいる人達の気が知れない。ちょっと前は地球寒冷化って言っていたのだから。そのうち氷河期が来るかもしれないじゃないか」
佐藤「いや、今、問題になっているのは、この10年間の年間平均気温が上がってきていることが顕著に見られるからだよ。しかも、その原因と見られる空気中のCO2が急増していることは事実なんだ」
山田「そうかもしれないが……」
佐藤氏に対する山田氏の
もっとも効果的な反論を一つだけ選ぶと?
A:CO2と気温の間には強い関連があるけれど、因果関係があることは証明されていない
B:年間平均気温が上がっても、20度も上がるわけではない
C:CO2削減を考えるのは時期尚早である
D:CO2以外でも気温上昇の要因を考える必要がある
E:地球のことなんだから、数十万年の単位で考えたほうがよい
設問14:地球温暖化の原因は本当にCO2?(2)
設問13の山田氏の反論をうけて、
佐藤氏の再反論を効果的にする事実を
次の中から一つ選ぶと?
A:山田氏はリサイクル運動に反対である
B:地球の気候に影響を及ぼす太陽の黒点活動も活発になってきていることがこの数年観測されている
C:気温上昇によってもCO2は増加するが、その割合をはるかに超える割合でCO2が増加している
D:現段階で、CO2排出ゼロの決め手となる水素燃料による自動車は実用段階に近づいている
E:氷河期の時は空気中のCO2も減っていた
ロジカル会話問題集 設問13,14解説
原因と結果が混在する
原因と結果が複雑に絡み合っている典型的な問題の一つに、地球温暖化の議論があります。特にCO₂排出と温暖化をめぐる議論です。今やCO₂の削減は企業も個人も取り組まなければならない課題として認識されていますが、一方で、懐疑的な見方も根強く存在します。それも、単にエコブームに対するうがった見方や、政治的な陰謀説だけではなく、地質学や気象学の専門家による科学的根拠に基づいた反論も展開されているのは興味深いところです。
前の設問12で紹介した差異法や一致法を使おうにも、「では、他の星で条件を一致させて……」というわけにもいかず、加えて原因と目される要因(CO₂の増加)が結果(気温の上昇)を生むまでの時間も、比較できないほど長い時間軸を必要とします。従って、専門家の間でも見解が分かれるのは、ある意味では当然なのかもしれません。
ちょっと前にNHKが地球温暖化特集番組を1日かけてやっていました。お笑い芸人とサイエンスライターとして知られる竹内薫さんを「突っ込み役」として招き、CO₂削減を訴える専門家に質問を投げるという形をとっていたのです。その番組を見ながら、この問題のヒントが浮かびました。実は選択肢の発言は番組の中で出てきた発言をもとに作成しています。もちろん、私はこのテーマについてはまったくの素人。気象学も気候学もわかりません。従って、皆さんもこの設問13・14は論点整理の練習であると思って取り組んでみてください。
それでは、設問13の解説に入りましょう。両者の発言を整理すると、山田氏は「ちょっと前は地球寒冷化って言っていたのに、今は温暖化だと騒いでいる」と言っており、つまり前提をくみとると、気温は寒暖のサイクルで変わりうるだろうということを論拠としています。
それに対して、CO₂削減を推進する佐藤氏は、この10年間の平均気温のアップとCO₂の急増の強い相関を指摘しています。
よって、佐藤氏に対する山田氏の反論として、効果的なものは、「相関関係は因果関係の必要条件であるが、それだけでは十分条件ではない」という趣旨を言えばよいのです。
結論から言うと、正解はA〈CO₂と気温の間には強い関連があるけれど、因果関係があることは証明されていない〉になります。
念のため、他の選択肢も見ておきましょう。B〈年間平均気温が20度も上がるわけではない〉というのはかなり乱暴な発言と言わざるをえません。なぜなら、氷河期時代の平均気温は今より、5度程度しか違わないと言われています。20度上がらなくても、環境に与える影響ははかりしれません。C〈時期尚早〉と考える論拠はどこにも提示されていません。D〈CO₂以外でも気温上昇の要因を考える必要がある〉の発言は、第7章で詳述する「対話」としては悪くないのですが、温暖化の原因の一つはCO₂であることを自ら認めており、反論ではありません。
セミナーでこの問題をやってもらったところ、E〈地球のことなんだから、数十万年単位で考えたほうがよい〉に飛びつく人が少なくありませんでした。確かに、50億年という地球の年齢を考えたら、10年ぐらいの増加はたいしたことはないでしょう。ただし、ここで10万年前の氷河期まで持ってくると、もはや現代社会はおろか、ホモサピエンス文明の枠まで超えてしまい、的外れになってしまいます。
さて、設問14は佐藤氏の論点を補強するポイント探しです。読者の皆さん自身の、CO₂増加と温暖化を実際にはどう評価しているかという視点が入ると、混乱することがあります。あくまでも設問の論理展開のチェックをしていることを思い出してください。
さっそく、選択肢を見てみましょう。A〈山田氏はリサイクル運動に反対である〉という事実は、相手の発言以外を攻撃することの材料にはなりえます。ただし、それを持ち出してしまうとロジカル会話は成り立たなくなります。
B〈地球の気候に影響を及ぼす太陽の黒点活動〉を持ってくると、佐藤氏の主張であるCO₂増加による温暖化が進むという論点をむしろ弱めてしまいます。D〈水素燃料による自動車は実用段階に近づいている〉やE〈氷河期の時は空気中のCO₂も減っていた〉は論点からそれていることは明らかです。
では、残りのC〈気温上昇によってもCO₂は増加するが、その割合をはるかに超える割合でCO₂が増加している〉を見てみましょう。山田氏に限らず懐疑派の論点の一つとして、温暖化とCO₂増加は因果ではなく、相関であり、タマゴとニワトリの関係だという人もいます。つまり、CO₂によって温暖化が起きるのではなく、気温が上がるとCO₂が増えるという見解です。Cは前半で、懐疑派の主張をある程度認めている内容です。しかし、気温上昇による増加の割合を超えたCO₂増加があれば、懐疑派への反論を試みることは可能です。
つまり、温暖化とCO₂の増加は、因果関係ではないとする主張の限界を示すことによって、「因果関係と見るしかない」という立場を支援する情報なのです。選択肢の中でもっとも効果的なものはCです。
実はこの解答は前述のNHKの番組で、竹内さんが「因果関係が本当にあるのでしょうか」とたずねた時の解説側の方の答えでした。残念ながらその後、司会者はお笑い芸人に振ってしまったので、CO₂懐疑派が納得するところまでには至りませんでした。
このクイズの中では確かに妥当な反論としてCなのですが、CO₂懐疑派とのかみ合う議論を今後期待します。
ロジカル会話問題集 設問13,14 回答
ロジカル会話問題集 設問13 回答
正解はA
相関関係は因果関係の必要条件だが、それだけでは十分条件ではない
ロジカル会話問題集 設問14 回答
正解はC
因果関係のかなり錯綜している状態でも、因果関係を強める要因なのか、弱める要因なのか、冷静に見きわめることが重要
(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)