「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第5章 数字にごまかされない(設問29-35)

数字には魔力があります。プレゼンテーションを行う立場から見れば数字を使うことによって、説得力を高めることができます。

一方、受け手からみれば、その魔力を冷静に見きわめなければなりません。また、情報を提供する側が悪意でなくても勘違いをして数字を使っている場合もあるのです。

その意味で統計の知識は、情報が氾濫する現代では一層重要なものとなります。この章では、数字に苦手意識のある方にもわかりやすく、数字にごまかされない基本を紹介します。

ロジカル会話問題集 設問29「リストラはサブプライムの影響?」

高倉「外資系金融機関でリストラされた人は、この1年間で1057人もの数字になる。やはり、サブプライムの影響はすごいね!」

小島「ちょっと、待って。そう結論づける前に、聞きたいんだけど……」

 この後、小島氏の発言を続けるとして、

次の中で効果的でないものを一つあげると?

A:そもそも、外資系金融機関で働いている人って何人いるの?

B:この5年ぐらいの間で、リストラされた人ってどう変わってきたの?

C:国内金融機関で希望退職者も含めての退職者はどのぐらいの比率なの?

D:外資系のメーカー、例えば自動車関連でリストラされた人は?E:あなたは統計学、勉強したことあるの?

ロジカル会話問題集 設問29解説

「多い」「少ない」に飛びつく前に

 数字には魔力があります。数字を出されると、思わず納得してしまったりします。魔力の秘密は次の3つが考えられます。

  • 具体性:わかりやすさがあります。
  • 信頼性:数字を出すということは、事実であり、データーがあるという前提が伝わります(現実はそうでなくても)。
  • 検証可能性:数式で確認作業ができます。

 ただし、この魔力ゆえに、意図的に数字を操作したり、また悪意の操作がなくても、誤った解釈もしてしまうのです。例えば、

「今回の講演参加者の27歳から54歳と幅があったものの平均年齢は38歳。従って、次の集客チラシでは38歳がもっとも直面する仕事の悩みを特集しよう!」

 というような発言です。

 もし、講演参加者が図-10のような状況であったら、集客チラシは効果を生まないでしょう。確かに平均年齢は38歳ですが、年齢分布にばらつきがある場合、平均だけではなく、標準偏差(ばらつきを示す数値)を取らなければこのような初歩的な間違いをしてしまうのです。

数字の読み方4つの基本

 さて、設問29。高倉氏は「1057人もの」と言っているように、この人数を多いと考えています。「多い」か「少ない」かに飛びつく前に数字の読み方について、4つの基本だけ確認しておきましょう。

  •  比率で考える(%)
  •  実数で考える
  •  時間の推移による変化を考える
  •  状況を置き換えて考える

 もうお気づきのように、この基本は回答の選択肢に盛り込まれているのです。まず、ここでは1057人という数字が先に提示されているので、その数字が何パーセントに相当するかを確認する必要があります。従って、Aの〈外資系金融機関で働いている人って何人いるの?〉という質問は有効です。反対にパーセントで示されている場合も、実数を確認しなければなりません。例えば、中国やインドの市場について議論している時に、「高額所得者と言っても全体の人口からみたら、ほんの数パーセントにしかすぎない」という発言を聞いたことがありますが、当然、人口の絶対数が大きいので、その数パーセントは数千万人なってしまうわけです。

 次に時間の推移の確認によって、上がっているのか、下がっているのかを知ることができます。よって、B〈この5年ぐらいの間で、リストラされた人ってどう変わってきたの?〉の質問も重要です。

 C〈国内金融機関で希望退職者も含めての退職者はどのぐらいの比率なの?〉とD〈外資系のメーカー、例えば自動車関連でリストラされた人は?〉の質問をすることによって、状況を置き換えて検証することができます。一般的に、日本企業の場合はドラスティックなリストラよりは、「早期退職制度」の名の下に行われることがあるので、その分を考慮しながら国内金融機関と対比する意味はありますし、反対に外資系の他の業界と対比することによって、サブプライムの影響なのか、景気全般のことなのかを判断する材料にもなります。

 この設問29は、実はある新聞の見出しがヒントになっています。確か、1000人ぐらいがリストラと記されていたのですが、外資系金融機関の就業人口が2万人以上であったと記憶しています。そうなると、リストラされた人数比率は5%であって、それほど「多い!」とは断言できないところです。ちなみに、この記事の1カ月後、サブプライムによる金融不安が本格化していくのです。  従って、正解はの〈統計学の勉強〉。統計の基礎をもっと勉強してほしい、という思いはあっても、いきなりこの質問から入っては、効果がないどころか相手の気分を害し逆効果になるかもしれません。

ロジカル会話問題集 設問29 回答

正解はE

数字は魔力があるゆえに、慎重に判断したいもの!

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)