「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第1章 ロジカルとは何か(設問1-7)
論理思考、ロジカル・シンキングが普及してきたと述べましたが、“ロジカルとは何か?”、“論理とは何か?”の理解はなかなか進んでいないようです。
「業界の論理はそんなもんじゃない!」
「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」
というように、安易に使われることもあります。
あるいは、論理と屁理屈の区別がつかない人もかなりいるようです。そこで、この章では、論理とは何か、ロジックとどう違うのかを考えてみましょう。
ロジカル会話問題集設問7 複雑な問題も「分ける」ことで、すっきりと「分かる」!
業務用モーターXの潜在顧客は、すでに開拓し尽くした。しかし、顧客は今後もこの製品を継続的に購入することが見込まれるから、需要に大きな変化はないことが見込まれる。この業界における実質的な価格決定権は、業界のリーダー企業が有している。また、新しい競合企業の参入や代替品の出現はないと想定される。従って、この業界では製造コスト削減を地道に行うことに注力すべきであろう。
上記はとある業務用モーターXの業界動向に対するアナリストの分析である。
この分析の前提を一つあげると?
A:モーターXの生産拠点の数は合計15カ所
B:顧客はモーターXの価格に満足している
C:各社が提供する製品は品質の差が大きい
D:この業界は製品差別化によるシェア獲得は難しい
E:コスト削減は、生産性の向上がもっとも効果的だ
ロジカル会話問題集 設問7解説
まずは箇条書きにして整理する
ロジカル会話を妨げるものの一つに、「わかりづらい話」というのがあります。いろいろなことを言っているのだが、結局何が言いたいのかよくわからない。どうやって対応するのがよいかわからない。しだいに、会話はずれていく……。こんなパターンですね。
そのような場合どうすればよいのか。一言で言ってしまえば、話を整理することです。その第一歩は、話している内容を「分ける」ことです。「分かる」という言葉は元来「分ける」という言葉からきています。つまり、物事の理解の基本には物事の分解・細分化があるのです。
このことを、設問7を例にとって見ていきましょう。まずは、アナリストが最終的に言いたいことを押さえておきます。アナリストが最終的に言いたいことは何かと言えば、発言の最後にある「業務用モーターXの業界では、製造コスト削減を地道に行うことに注力することが必要」です。その前で言っていることは、いずれもこの最終的に言いたいことの論拠となるようなことです。まずはこれらをバラして、箇条書きにしておきましょう。
1.業務用モーターXの潜在顧客はすでに開拓し尽くした
2.顧客は今後もこの製品を継続的に購入することが見込まれる
3.需要に大きな変化はないことが見込まれる
4.この業界における実質的な価格決定権は、業界のリーダー企業が有している
5.新しい競合企業の参入や代替品の出現はないと想定される
このように話した内容をバラしたら、それぞれの情報が「何についてのものか」という点から整理すると、共通点を見つけやすくなります。
まず1〜3は、主に市場や顧客についての情報です。これらで言っていることは、「顧客に変化はない」と「需要に変化はない」ということですね。
続く4と5では、業界のプレイヤーについての情報になります。ここでは、「業界リーダーの価格に従う必要あり」と「この業界にいる企業自体に変化はない」ということが読み取れます。こうしてみると、要は変化のない業界である、ということがわかります。こうした変化のない業界では、コスト削減を行うのはもっともなことのように感じられます。
ただし、よく考えてみると、まだ変化のある可能性のあるものがあります。そう。製品そのものですね。製品の機能向上や差別化により、業界に変化が生じてしまえば、コスト削減だけがとるべきことではなくなります。
ところがアナリストの結論はコスト削減のみ提案している。つまりは前提として商品の差別化による業界の変化は望めないと考えている。そこで初めて、D〈この業界は製品差別化によるシェア獲得は難しい〉という正答を導き出すことができるのです。
このように、話した中身を分けて、それらを丁寧に見ていけば、最終的な主張の論拠や前提が自ずと見えてきます。しかし、実際に問題を解いてもらうとうまく正解にたどりつけないことも多いのです。例えば、「製造コスト削減」という言葉に引っ張られると、A〈モーターXの生産拠点の数は合計15カ所〉やE〈コスト削減は、生産性の向上がもっとも効果的だ〉という製造コストに関連しそうな情報が前提にある、と思い込んでしまいます。
例えば、B〈顧客はモーターXの価格に満足している〉のように、顧客は価格に満足している状況なら、あえて製造コストを削減する必要性もないでしょう。また、C〈各社が提供する製品は品質の差が大きい〉のように品質にバラツキがあるとなると、製造コスト削減以上に高品質の提供が鍵となるかもしれません。
これまで見てきたことからおわかりのように、人の話を理解するための第一歩は「分ける」ことです。話の内容を分けながら理解する技術を身につけておくと、相手の話の脈絡や、関係のあることを話しているのか、それとも実際には関係のないことを話しているのか、ということをすっきり理解することができます。
ロジカル会話問題集設問7 回答
正解はD
コスト削減がアナリストの結論。「製品そのものの変化や差別化は難しい」という前提がある
(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)