「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第2章 因果関係に強くなる(設問8-14)
大声で泣けばお母さんがすぐ来る。
ベッドから落ちると痛い。
幼児がいろいろなことを早く学ぶのは、このように、原因と結果が近くてわかりやすい環境、つまり因果関係が単純な状況に居るからです。ところが、大人になると、因果関係は複雑になってきます。結果がわかるまでの時間は長く、どれが本当の原因なのかわかりにくいことのほうが多いのです。
それでも、何が本当の原因かを考える姿勢は思考力を伸ばす上では欠かせません。
この章では、ロジカルシンキングの基本、因果関係を見きわめるコツを紹介します。
思考力を養う「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」設問8 内部告発が企業解体の原因か?
佐山「最近の内部告発ブームはいかがなものか? 内部告発がきっかけで解体寸前に追い込まれているM自動車はその代表例といえるだろう」
中田「待ってください。M自動車はリコールの隠蔽をしていて、それが明るみになったわけですよ」
二人の会話から、佐山の論点の弱さをもっともよく表しているのを一つだけ選ぶと?
A:「からっ風が吹くと桶屋が儲かる」という論法を考えたから
B:M自動車という一つの事例を一般化したから
C:原因と考えた要因のさらなる理由を考えていないから
D:内部告発と窮地に追い込まれた企業に関するデーターを検証していないから
E:因果の逆転を考えていないから
ロジカル会話問題集 設問8解説
「なぜ?」を問わない風土
因果関係、つまり原因と結果を考えることはロジカルシンキングだけではなく、人間の思考能力のもっとも基本中の基本です。ところが、日常会話では何気なく、因果関係かどうか不確かな「因果もどき」の話をすることがあります。問題の解説に入る前にいくつかの事例で考えてみましょう。
次の会話の中で因果関係と言えるものはどれでしょうか?
a 川中「今場所は関脇の北鷗が初優勝したね」
中川「中日からひげもそらないで気合を入れていたしね」
b 浜中「あ、雨が降りだした!」
中浜「そう言えば、さっきツバメが低く飛んでいたからね」
c 里中「X社が倒産するようだね」
中里「ということは、Y社も危ないね」
d 田中「だめじゃないか、遅刻して!」
中田「すみません、電車の事故があったので」
では、aから始めましょう。北鷗がひげをそらなかったことと、彼が優勝したことは因果関係でしょうか? 「ゲン担ぎ」は優勝の原因ではない、と説明すればスッキリするでしょう。
bはセミナーで出題してみたところ、混乱する人がかなり出ました。特に「雨が降りそうになると、その気配を感じた虫が葉の裏に隠れるために、そうした虫を狙うツバメは低く飛ぶ」という知識を持っている人ほど、「因果関係では?」と思う傾向があるようです。「確か田舎で見たことがある」と経験談を話す人もいました。
では、因果関係が成り立つ3つの条件をチェックしましょう。
1.原因は結果の先に起きている(時間軸のチェック)
2.相関関係、共変関係がみられること(変化のチェック)
3.第三変数の排除(「他に原因はないか?」のチェック)
この3つがすべて成り立っていないと因果関係は成立しません。ツバメの例で見ると、雨が降りだしたのは今で、ツバメが低く飛んでいたのは「さっき」=過去です。よって、もし、これを因果関係とすると、「ツバメが低く飛んだことが原因で雨が降った」ことになってしまいます。このように、日本語を明確に話すことによってハッキリします。前ぶれ(前兆)は原因にあらず、と覚えておくとよいでしょう。
次に、cの問題です。X社が危ないからY社も危ない、というところだけ考えれば、この2社が連動している、つまり相関関係はありそうだと考えられます。ただし、因果関係にするためには、Y社の倒産の原因がX社の倒産に起因していなければなりません。
dの問題、遅刻の原因は電車の遅れである、というのはよくある話です。ただし、これだけでは因果関係があるかどうか断定できません。この場合、同じ電車に乗っていた他の社員が遅刻していなかったら、原因は他にあり(例えば、その後コンビニに寄ったためなど)と言われてしまうのです。
さて、ウォームアップをこれだけやっておけば設問8はそれほど難しくないでしょう。
この問題は、数年前ある「オピニオン誌」に掲載された次ページの記事がヒントになりました。
(中略) 頼りどころのない心の渇きが、引きこもり病、自殺などを誘発、陰湿な内部告発、故意による事故の形となって、企業にゆさぶりをかけてきているのだ。
内部告発がきっかけとなり、解体寸前にまで追い込まれてきているM自動車などは、さしずめその代表格でもあろう。(「WEDGE」2004 Octoberから引用。固有名詞は編集部により匿名に変更)
この論者は、なぜ内部告発が起きたのかを考えなかったのでしょうか? なにしろ、当時既に「リコール隠し」は知れ渡っていのですから。「解体寸前」という結果を招いた原因はあくまでも「リコール隠し」であることは明らかです(正解はC)。この筆者に限らず、似たような論法で食品偽装や粉飾決済をした企業を弁護するような評論家が絶えないことには驚かされます。
どうも、日本では「なぜ?」を問わない風土があるようです。「なぜ?」を問うのは思考の原点であり、論理思考のもっとも基本的なことであるにもかかわらず、嫌がられてしまう傾向があります。冷静に原因を追及して、因果関係を見きわめるには、「なぜ?」繰り返すことが基本なのです。
「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」設問8 回答
正解はC
現象が起きたのはなぜかを考えることが因果関係を見きわめる基本。
素朴な質問はそのためには必須である
(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)