「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第3章 ロジックの基本、演繹と帰納(設問15-21)

論理アタマをつくるには、最低必要な原理原則を理解しなければなりません。

そうでないと、第1章でも紹介したように「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」という詭弁の罠にはまってしまったり、勝手な屁理屈と区別することもできません。

その意味で、演繹と帰納は論理アタマをつくる必須の原理原則の一つです。この二つは中学や高校でも学んでいるのですが、より実践的な学び方をこの章で紹介しましょう。

ロジカル会話問題集 設問18「経営者とスポーツの正しい関係は?」

以下は、あるスポーツトレーナーの発言です。

「私が担当する顧客には成功した経営者が多い。しかも、彼らは私が担当するジムでのトレーニング以外に、ハードなスポーツもしている。a社の社長は最近極真空手の黒帯をとった。b社の社長は毎年トライアスロン大会に出場している。c社の創業社長はマラソン大会でも上位に入る。こうした傾向は以前には見られなかった」

 上記の発言から導き出すことのできるものを

一つ選ぶと?

A:経営者として成功したければ、ハードなスポーツに取り組むべきだ

B:経営者も会社経営だけでは注目されない時代になったようだ

C:ハードなスポーツは自己を律するタイプの経営者に向いている

D:成功している経営者でハードなスポーツにも取り組んでいる人が増えている

E:ハードなスポーツに取り組むことで会社経営にも磨きがかかるようだ

ロジカル会話問題集 設問18解説

帰納は積木を横に並べる

 帰納法とは、個別の事例や事象の共通点を見出して結論とする手法です。帰納法も演繹法と同様、積木モデルで考えることができます。帰納法は細い積木(個々の事実)を横に並べて、最後の結論をその上に並べるイメージです。

 ここで注目してもらいたいのは、一番右にある積木の内容です。例えば、「歴史上死ななかった人はいない」という積木があれば、結論の積木はかっちりとのせられることになります。ただ、実際にはなかなかそのような積木は見つけることができません。そこで、帰納法の場合は、厳密に言えば「〜だろう」という推測の形をとることになります。

 この問題は、まさに帰納法を用いて結論を導き出すことを行います。帰納法を用いて結論を出すことは、特にビジネスパーソンにとっては日常やっていることで、あまり難しくはないでしょう。日常生活でも自然にこの論法を使って考えています。ここ数年某省庁の大臣が連続して辞任しましたが、このような事実が積み重なると自然と「今度の大臣も短命だろうな」とか「あの省庁の大臣は鬼門だ」と思うのは、帰納法を用いている例です。

 今見たように、個別の事例の共通点というのは、いくつかの観点から複数見出すことができます。このようにいろいろな結論が出てくるのも帰納法の特徴です。

帰納法は共通点を探る

 帰納法で結論を導き出す場合、まずはそれぞれの事例や事象の共通点を探ることになります。この問題では共通点を見つけることは難しくありません。a社、b社、c社の経営者は成功しているので、共通点は「成功している経営者」となるでしょうし、彼らが取り組んでいるのはスポーツ、それも比較的ハードな部類に入るスポーツというのも比較的簡単にわかるでしょう。

 次に共通点をもとに結論づけをします。ここで注意したいのが、両者に何か特別の関係があるかのように早とちりしないこと。典型的な例としてあげられるのは〈経営者として成功したければ、ハードなスポーツに取り組むべきだ〉や〈ハードなスポーツに取り組むことで会社経営にも磨きがかかるようだ〉です。も、ハードなスポーツに取り組んでいるから経営者として成功している、というふうにとらえてしまった結果、結論としてしまうものです。第2章の因果関係でも見てきたことですが、ここでは「成功している経営者」と「ハードなスポーツ」に因果関係があるとは一言も書かれていません。

 似たような例として、両者を憶測で関連づける、というものがあります。〈経営者も会社経営だけでは注目されない時代になったようだ〉がそれに該当します。では、会社経営者が注目されたいための手法として、ハードなスポーツに取り組むようになった、という仮定のもと結論を導いていますが、トレーナーの発言にそのような仮定はまったく含まれていません。〈ハードなスポーツは自己を律するタイプの経営者に向いている〉も同様です。ハードなスポーツから連想される「自己を律する」というものも、トレーナーは言っていません。このように、発言にない内容のものを推測して加えることも帰納法では危険です。

 となると、〈成功している経営者でハードなスポーツにも取り組んでいる人が増えている〉の結論となるのが自然です。ただ、もちろんこのトレーナーの発言だけでDが妥当なものと判断するのは時期尚早ですね。なぜなら、このトレーナーも一部の経営者しか見ていないからです。実際に他に成功している経営者はハードなスポーツに取り組んでいるのか、というデータを十分に集めたうえで、結論の妥当性を追及していかなければなりません。  帰納法は、複数の事例の共通点から結論を出していくというのが基本です。あまり気張って、「無理に関係をこじつけてしまう」「書かれて(言われて)いないことを結論に加えてしまう」ということのないように気をつけましょう。

ロジカル会話問題集 設問18 回答

正解はD

3人とも成功している経営者、

いずれもハードなスポーツに取り組んでいる。

この二つを結びつければ、自ずと正答に至る

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)