「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第3章 ロジックの基本、演繹と帰納(設問15-21)

論理アタマをつくるには、最低必要な原理原則を理解しなければなりません。

そうでないと、第1章でも紹介したように「それは、あなたのロジックで私のロジックは違う!」という詭弁の罠にはまってしまったり、勝手な屁理屈と区別することもできません。

その意味で、演繹と帰納は論理アタマをつくる必須の原理原則の一つです。この二つは中学や高校でも学んでいるのですが、より実践的な学び方をこの章で紹介しましょう。

ロジカル会話問題集 設問17「人数を増やせば準備期間は短縮できる?」

佐藤「展覧会開催までもう2週間しかないですよ。昨年は準備に1カ月かかりました」

田中「昨年は確か5名で準備を進めたはずだ。今年は10名に増員しよう。これなら2週間で間に合うな」

 続く佐藤氏の反論として、田中氏の主張にある

前提をもっとも突いているものは?

A:昨年5名集めるのも大変だったのに、10名集めるのはもっと大変ですよ

B:展示会準備の段取りも考慮すると、人数だけで期間短縮をはかるのは無理です

C:昨年この展示会の準備がどれくらい大変だったのかご存知ないのですか

D:私は昨年準備しましたから、今年は私がやるわけではないですよね

E:本当に2週間でできると思うのなら、別の人に準備をお願いしてみてはいかがですか

ロジカル会話問題集 設問17解説

前提の組み立て方の確認を

 前の設問1516で、演繹(三段論法)の基本は積木モデルで考えると理解しやすいということを見てきました。積み木モデルを見ればわかるように、演繹法は一番下の部分がぐらつくと、途端におかしな結論となります。つまり、演繹の場合、まず確認すべきなのは大前提の部分なのです。

 では、設問17はどうでしょうか? まずは大前提を見てみましょう。田中氏は展示会の準備に5名で1カ月かかったという話を聞いて、工数として「5人/1カ月」必要と見積もっています。これが大前提です。でも、期間は2週間しかないから、5人/1カ月という工数を満たすには倍の10人必要と考えたのです。一見数字でカチッと算出根拠も示されているので、大前提は妥当なように見えるかもしれません。ならば、田中氏の発言は妥当なものと考えてよいのでしょうか?

 こういう時は、田中氏の前提を、極端な形でも成立するか検討してみましょう。例えば、150人いれば展示会の準備を1日でできるか、600人なら6時間でできるか、などと考えてみれば、この数式(工数)がどんな場合でも当てはまらないことはすぐわかります。こうしてみると、人数を倍にしたから期間も半減できるという、田中氏の主張もあやしいものになってきます。

 と指摘すると、田中氏からこう反論が出るでしょう。「そんな極端な例を持ち出すのはおかしい。条件が全然変わっているじゃないか」。このような指摘があった場合は、次のように返答すればよいのです。「では、あなたが人数を倍にすれば期間を半減できるという意見は、どのような条件だと成り立つのですか?」

大前提「工数をかければ準備は完了する」

 以上のやり取りでわかることは、学校の時に学んだ仕事算の限界を示すものです。田中氏は、“準備は一定の工数をかければ完了する”という大前提を置いて、展示会は短期間で準備させることが可能だとしています。一見数値で裏づけされているので妥当な前提のように見えますが、この前提が成り立つためにはいくつか条件があります。例えば、全員が同じ作業をすればよい状態になっている、とか、ある作業が終わらなければ次の作業に進めないなどの作業手順が厳密でない、などの条件を満たさないと、単に人数を増やせば何とかなるわけではないことがわかります。

 では、指摘の仕方としてどのようなものがあるでしょうか。オーソドックスなやり方としては、設問にも書かれている「田中氏の主張の背後にある前提を突く」やり方です。つまり、田中氏の前提の妥当性を突くような反論をすればよいのです。具体的に言えば、この展示会の準備が、「展示会準備の時間=一人でかかった時間×人数」という式が成り立つ「仕事」かどうかの指摘、つまり〈展示会準備の段取りも考慮すると、人数だけで期間短縮をはかるのは無理です〉のように、仕事の内容が複数あって、それらをこなすだけでなく、段取りも考慮しなければならない、というような指摘が考えられるでしょう。

 こうした大前提の部分にさえ目が行けば、この問題は比較的容易に解答できます。実際、セミナーでも8割近くの参加者が正答にしていました。

主張の背後にある前提を突いた反論を

 ここで、主張の背後にある前提を突いた反論をしないと、田中氏の土俵に乗ってしまうことになります。それぞれ1割程度回答している〈10名集めるのはもっと大変ですよ〉や〈昨年この展示会の準備がどれくらい大変だったのかご存知ないのですか〉などは典型的な例です。思わずこうした反論をしたくなりますが、それは田中氏の仕事算が正しいという前提で議論を進めることになってしまいます。そうすると、あとは何人で準備をすればよいか、というごく細部の議論になってしまい、結局(人数が何人になるかは別にして)労力をさいたのはいいが、準備が期限までに終わらないという悲劇を招くことになります。  

また、よく見られるのが、前提が妥当かどうかという点を無視して、「誰がやるのか」という話に進んでしまうケースです。この問題では〈今年は私がやるわけではないですよね〉や〈本当に2週間でできると思うのなら、別の人に準備をお願いしてみてはいかがですか〉などです。私たちは往々にして、「その仕事は誰がやるのか」「この問題は誰が引き起こしたのか」と個人のレベルに責任を落とし込む傾向があります。それは、「自分は関係ない」という意識の裏返しでもあるのです。このような姿勢は思考の放棄思考の依存につながります。ロジカル会話を実現するためには、自分も当事者の一人として、最善の解を見つけていくようにしましょう。

ロジカル会話問題集 設問17 回答

正解はB

人数を倍にすれば作業時間は半分になる。

その前提の妥当性をまず最初に検証すべし

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)