「論理アタマをつくる!ロジカル会話問題集」第4章 メタファーとアナロジー(設問22-28)

メタファー(比喩)やアナロジー(類推)は我々の思考力の基本動作とも言える身近なものです。

これらをうまく使うと、思考力を活性化し、ものごとの理解を助けたり、会話に深みを持たせたり、うまく進めることができます。

同時に、関連のないメタファーやアナロジーの誤用は、思考や会話の混乱を引き起こします。

そこで、この章では、メタファーやアナロジーをうまく使いこなすコツを紹介します。

ロジカル会話問題集 設問28「政界のなまず!?との会話はどうすれば」

Kキャスター「最近の政治腐敗はひどいですね」

M議員「政治家というのは汚いこともしなければ。昔から言うでしょ。『水清ければ、魚住まず』って」

K「でも、鮎みたいにきれいな水じゃなければ、住めない魚だっている。あなたは鮎って言うより、なまずっていう感じ。だから国民の政治離れが進むんです」

M「なまずで結構。むしろ、老獪ななまずとして今後ともがんばりますよ」

 二人の会話について、

もっとも表しているものを一つ選ぶと?

A:K氏の喩えによる反論が弱いため典型的な政治家とキャスターのなれあいの会話になってしまった

B:K氏が喩えの使い方を誤ったため、M議員を居直らせてしまった

C:K氏が喩えにこだわったため、論点があいまいになってしまった

D:K氏が老獪なM議員の喩えにはまってしまったため、本質的な議論ができなかったE:K氏がM議員の自尊心をくすぐる喩えを使ったため、追求が甘くなってしまった

ロジカル会話問題集 設問28解説

政治家の話し方の特徴は?

 政治家の発言を聞いていて、最近、気がついたことがあります。論拠を明確にすることなく主張したりするのは慣れてしまっていますが(そうでは困るのですが……)、「たるおもいです」などやたらに難しい単語、故事成語を駆使するわりには、何を言っているのか不明だということです。うがった見方をするとそうやって国民をごまかしているのでは?と思ってしまいます。

 以前、「若手ホープ」とされる政治家に「少子化の原因について、10年以上前から言われていたのに、政治の無策があると思いませんか?」と直接たずねたことがあります。すると、彼は「私どもも、熟慮のうえ、真摯にこの問題に対峙していきたいと、考えているのですが、ただ、今の時代に“産めよ、増やせよ”ということでもないですし……まあ、このに懲りて、を吹くというか」という答え。居合わせた他の参加者ともども、あきれて絶句してしまいました。

メタファーの限界

 さて、メタファーは置き換えることによって、伝達機能が高まると紹介してきたのですが、同時にメタファーには限界があるのです。これは言語学者や研究者も指摘しているのですが、メタファーやアナロジーで利用されている類似は「構造の類似で、実質的内容の類似ではない」() という点です。あくまでもa:b=c:dという相似性であって、a=cではないということです。

 わかりやすく言うと、メタファーはあくまでも補足の説明であるので、メタファーそのものは論拠としては弱いのです。

 このあたりで問題文を見てみましょう。キャスターのK氏の質問にM議員は「水清ければ、魚住まず」という「ことわざ」に置き換えて「政治家は汚いこともしなければならない」と正当化しています。

 つまり、政治腐敗についての追及に対する反論の論拠は明確にしていないのです。これに対して、K氏は「鮎」も持ち出して反論はしているのですが、この反論は相手の喩え話をつつくだけの効果であって、論拠の不在に対する追及ではないのです。

 さらに、K氏が今度は自らのメタファーを続けて「なまず」を持ち出したために、M議員に切り込めなかったのです。

 もしも、K氏が「で、私の当初に質問に戻って、そもそも……」と論拠をつつくか、「まあ、喩えはこの辺にして……」と戻すことも可能だったのです。このように、お互いにメタファーにこだわっていると、話は余計に混乱してしまうのです。従って、正解は〈K氏が喩えにこだわったため、論点があいまいになってしまった〉です。  他の解答も部分的には二人の会話を表しているところもあるのですが、二人の論脈を以上で見てきたようにトレースしていくと、キャスターが自らのメタファーにこだわってしまったことが要因であるとおわかりでしょう。

ロジカル会話問題集 設問28 回答

正解はC

メタファーやアナロジーにこだわりすぎると論点がぼやけて話の本質が見えなくなる。

比喩はそこそこにして、話を戻す必要もある

(文責:グローバルインパクト 代表 船川淳志)